第5章 「恋」
「大丈夫、そんなこともあろうかと」
赤松はスーパーの袋に山盛り入ったケーキの材料を掲げてみせた。これでいくら焼け焦げてもすぐ作り直せるよ!と自信満々に言う彼女に、いや焦がすなよ、とツッコミを入れた。ケーキ製作に取り掛かっていると、また家のチャイムが鳴った。
『ごめん、キーボ出てくれる?……キーボ?』
「キーボくん、雪が呼んでるよー」
「………え?……は、はい。出てきます」
ハッとして玄関に向かうキーボを見送った。すぐに視線を戻し、赤松と夢野の手元を観察(監視)していると、ソワソワとしていた赤松がにやつきながら問いかけてきた。
「ねぇ、天海くんから聞いたんだけど、告白されたってほんと?」
『えっ』
「天海とは…あのやたらイケメンな隣のクラスのやつじゃろ。逢坂はそのイケメンと付き合っておるのか?」
『いや、付き合ってないよ。付き合いたいわけじゃないって言われたから』
「そんなの嘘だよ、だって天海くんあんなに雪のこと好きなのに!私たちと遊んでる時も、ずっと雪見て微笑んでるんだよ⁉︎」
「前方不注意じゃな…きれいな顔を電柱にぶつけんといいが…」
『嘘って…嘘ではないと思うけど』
「付き合わなくてもいいと思ってる人が旅行から帰ってすぐその相手の家に向かったりする?振り向いて欲しいんだよ」
『天海は…「旅行ばかり出ていて、逢坂さんと一緒にいられない時間の方が多いんで、許してもらえるなら学外でもたまに会ったりしたいっす」って言ってきたんだよ。でも友達としてって念押ししてたし』
「念押しするのが逆に怪しいよ…!」
『怪しいのは楓の包丁使いだよ。刻んだチョコに鮮血まぜないでよ?』
「逢坂は天海の何が不満なんじゃ?あんなイケメン、そうそう味見できんぞ」
『……味見……』
「違うんだよ夢野さん、実はもう1人候補がいてね…」
話に集中しすぎて、レシピに載っていない塩を振りかけようとした赤松の手から、瓶を奪い取る。
「あ、ごめん…」
卵の殻をどこに捨てていいのかわからず、おろおろとして床に白身を滴らせていた夢野にポリ袋を渡した。
「んぁー…すまん」
『で、楓は最原に告白するの?』
「うっ、仕返しが来た…」
『最近いい感じなの?デート誘ったんでしょ、駅前のパフェ屋さん』