第4章 大嫌いなサンタクロース
今までずっと。
王馬は遠回しな言葉を使いながら、逢坂に好意を伝えてくれていた。
いつも受け止めていたはずのその彼の想いを、ようやく逢坂は自覚した。
だからこそ、逢坂は王馬の言葉を信じることにした。
「何もいらない」は「ただ側にいて」
「放っておいて」は「放っておかないで」
じゃあ彼女の言った「大嫌い」は
本当は嘘だったんだろうか
「………逢坂ちゃん、ごめん。泣かないで」
逢坂の片目から溢れた涙が、王馬の手を濡らした。
その雫の温度で目を覚ました彼は、すぐに身体を起こして、逢坂の頬を袖口で擦った。
「嘘ついてごめん。逢坂ちゃんのこと嫌いになったりしてないから。だから泣かないでよ」
いつになく彼が焦っているのがわかった。
嘘をつく余裕などない様子で、ひどく申し訳なさそうな顔で逢坂を見つめてくる。
『違うよ、悲しいわけじゃない。起こしてごめん』
嬉しかった。
初めて、嘘だったら良いのにと思えた。
初めての友達を失った日から、ずっと、ずっと、彼女の言葉を真に受けて、信じ込んでいた。
何度記憶を振り返って見ても、彼女が嘘をついたのかどうかは逢坂にはわからない。
殺されそうになったのに、それでもまだ彼女が自分を好きでいてくれたなんて、思い上がりも甚だしいと思う。
でも、彼女は自分の気持ちに嘘をついたのかもしれないと、ふと思った。
考えもしなかったその可能性に、気づくことができた。
初めて彼女に嫌いと言われたあの日。
彼女は寝坊して朝ご飯を食べ損ねそうになった逢坂を起こしにきてくれたし、逢坂は、彼女が逢坂にプレゼントを渡すタイミングを伺っていたのも気づいていた。
『…ありがと。私も王馬のこと、嫌いじゃないよ』
感情が溢れて、堪えきれない。
王馬は重たい身体を起こして、黙って逢坂の手を握ってくれている。
その彼の仕草を見て、やっぱりそうだったんだ、と呟いた。
何が?と聞かれたけれど、嗚咽が止まらず、答えられなかった。