第1章 ガラスの向こうの横顔
なんとなく最原の元気がない気がする。
いつも朝は得意ではないみたいだが、今日は一段と覇気がない。
『…最原、具合悪いの?』
「え?ううん、大丈夫だよ」
「大丈夫?もしかして、オレ邪魔だったかな。最原ちゃんの至福の時間を奪っちゃった?」
「ぜ、全然そんなことないよ!大丈夫、じゃあ行こうか逢坂さん、王馬くん!」
王馬と自己紹介をしながら、通学路を歩いていく。
彼は1- Aに所属していて、最原とはたまに会話をする程度の仲でしかないことを知った。
ならなぜ登校を一緒にしたがるんだろう、と疑問が湧いて来たが、逢坂はスルーしておくことにした。
王馬は無邪気に笑い、最原にも逢坂にも次々話しかけて来る。
いわゆるマシンガントークというやつか、と分析していると、不意に王馬がじっと真顔で見上げて来た。
「…………………」
『ん?』
「オレ、うるさいかな」
『…ううん、楽しいよ』
「一人暮らしだから人と会うとつい一気に喋っちゃってさー、あんまり慣れてないんだよね、人と話すのって」
「え?王馬くんも一人暮らしなの?」
「そうだよ!もー毎日寂しくて寂しくてやってらんないよ。逢坂ちゃん、今度遊びに来てよ」
(…たしかに、こんなによく喋る子なら一人暮らしできなさそうだよな。しょんぼりしてそう)
そう、逢坂は思ったのだが。
(…なんで最原はずっと、王馬くんの言葉に異論がありそうな顔してるのかな)
「……王馬くん」
「なに?」
「逢坂さんはその…結構人を疑ったりしないから、嘘はちゃんと嘘って訂正しないとダメだよ」
「えー?ひどいよ最原ちゃん、オレが嘘つきだって言うの…?…うわぁああああんっ‼︎‼︎最原ちゃんがオレを邪魔者扱いするぅぅ‼︎‼︎」
「じゃ、邪魔者なんて言ってないだろ!でもそういう嘘泣きをしたりするってことも逢坂さんは知らないんだから、本当に僕が泣かしたみたいになるし!」
突如として、張り詰めていた糸が切れたかのようにわんわんと泣き出した王馬。
その大絶叫に逢坂は目をパチクリさせ、最原はいつものことだよ、と逢坂に念を押して、ため息をついた。