第1章 ガラスの向こうの横顔
「……………」
『…あれ、食べないの?』
「…………………食べる……」
整った顔に似合わないぶすっとした顔をしながら菓子パンを頬張っている天海を見て、逢坂はカラカラと笑った。
(……ん?)
逢坂は、また誰かの視線を感じた。
教室を見渡して、ふと授業中の出来事を思い出し、窓の外の1-Aを見る。
すると、またあの紫の子がじっと逢坂を見つめていることに気づいた。
彼は逢坂と目が合ったことにまた喜んだのか、ガラスの向こうから無邪気に笑ってみせた。
そしてこちらを指差しながら、彼と同じく窓際に立っていた最原に話しかけた。
(……?……なに?……あ、最原だ)
希望ヶ峰学園は、全国からの入学生が集まる学校だ。逢坂、最原、赤松の三人はもともと同じ中学の出だった。
多方面に強い進学校で有名なその中学から、優秀な才能を持つ生徒たちがスカウトされるのは必然的で、例年数名の卒業生がエリート高校である希望ヶ峰学園に入学している。
逢坂は入学当初、仲の良かった二人が同じクラスなのに、自分だけ違うクラスになってしまったことで落ち込んでいた。
しかし、天海が積極的に声をかけてくれたことで、今は楽しくやれている。
そんなこともあったなぁとその頃を思い出し、センチメンタルな気分に浸りながら、逢坂はぼんやりとA組の二人を見ていた。
すると、また紫の子はブンブンと大きく手を振ってきて、その子に促されたかのように最原も、遠慮がちに逢坂へ手を振ってきた。
『天海、最原がいるよ』
「え?1-Aっすか?」
天海も椅子から少し腰を浮かせて、逢坂の方へと顔を近づけ、向こうの教室に視線をやった。
「ほんとだ。さっき話してたのって、あの小さい子っすか?」
『そう。どっかで見たことあるよね』
「そうなんすか?…ははっ、なんか手を振ってる最原君ってレアっすね」
『あはは、たしかに』