第1章 ガラスの向こうの横顔
購買を出て、二人で歩いていた時、天海が呟いた。
逢坂は、自分の手の中にあるチョココロネとベーコンエピを見比べた後、少し眉間にしわを寄せた。
『どっち?』
「え?」
『どっちが欲しかったの?』
「いや、そうじゃなくて……なんていうか、ほら……俺らもう知り合って結構経つのに、あんまり逢坂さんのこと知らないっす」
『そうかな。天海のこと結構知ってると思うんだけど」
「それは、逢坂さんが聞き上手だからじゃないっすか。でも聞き上手な人って意外と、ぜんぜん自分のことは話してくれないっすよね」
『えー……じゃあ何か質問していいよ』
「質問……購買のパンの中でどれが一番好きなんすか?」
『どれも一緒』
「一緒、なんすか?甘いのとかしょっぱいのとか色んな味あるんじゃないっすか」
『…んー。…あんまり好き嫌いないから…』
「ならなんで毎日違うパンなんすかね?全部一緒なら安いもの買った方が得では?」
『2日続けて食べるとしょんぼりするんだよね。(うわぁ……この味知ってるなぁ………)って飽きてくる』
「うわぁってなるほど落ち込むんすか」
『天海はそのパン好きだよね。というか、甘いもの大抵好きだよね』
「好きっすよ。いくらでも食べれるっす」
『ならさ、今度の調理実習楽しみだろうね』
「あ、クッキーだったっけ…楽しみっす、なんかたくさんもらえるし」
『たくさんもらえるのは天海の追加効果みたいなところあるけど』
「追加効果?」
『甘いものといえば、駅前にカフェできたよ。今度楓と最原誘って行ってみない?』
「あ、この前その店の前通ったっす。ポスターのパフェ見ました?」
『見た。すごい見た目だよね』
「ちょっと高いけど食べてみたかったんすよ」
『あれ紅茶パフェでしょ?天海コーヒー派じゃなかったっけ』
「ソフトクリームとかアイスクリームだったら、紅茶味も好きなんすよね。飲むならコーヒーの方が好きなんすけど」
そんなことを話すうち、2人は1-Bの教室へとたどり着いてしまった。
『そうなんだ。あ、ごめん、両手塞がってるから扉開けてもらってもいい?』
「あ、はーい」
(…………あれ?)
逢坂の後に続いて教室に足を踏み入れた天海が、重大な事実に気づき、ハッとした。
(…また)
なんやかんや自分の話にすり替わっている。