第3章 不在の代償
逢坂はその言葉が気にくわないらしく、露骨に眉間にしわを寄せて反論してきた。
『こんなに地球が広いのに、なんで全部見てきたみたいな話ができるの?それこそ傲慢なんじゃない?』
「………」
『私は別に天海の帰る場所になるなんて考えたこともなかったけど、待っててほしいなら待っててあげるよ。好きなだけ旅して、ずっとずっと探し回ればいいじゃん。頭から離れないほど大切な人がいるなら、忘れようとしちゃだめだよ。そんなことしなくたって、忘れる日はいつか来るかもしれないし、忘れたくなくても忘れちゃう日が来るかもしれないでしょ』
『だから、過去の話になんてするなよ。世界のどこかで天海を待ってる妹さん達がいるんでしょ?ならどこにでもいるような女捕まえて遊んでないで、旅にでもなんでも出かけてきなよ。私は天海のこと忘れたりしないし、いなくなったりしないからさ』
逢坂は自信満々にそう言ってみせた。
天海はその逢坂の顔を見て、きょとんと目を見開いた。
「……わかってないっすね。どこにでもいそうな人だったら、こんなに悩んだりしないっす」
『……?』
「みんな俺に諦めろって言うのに…キミは俺の背中を押すどころか、突き飛ばしてくるじゃないっすか」
『それ褒められたもんじゃないと思うけど…女子力のかけらも感じられない』
「でも俺は好きですよ」
天海は、本当に嬉しそうに笑った。
「俺の背中を突き飛ばしてくれるキミのこと、大好きなんです」
繁盛している店の一席。
躊躇いなくそんな歯の浮くようなセリフを言ってのける彼に、頬を染めた周囲の女性陣の視線が集まる。
素早く会計を済ませ、幸せそうにのほほんと笑う天海を店から連れ出した。
(はず……恥ずかしかった……‼︎‼︎)
道の脇の街頭にもたれかかったまま動かない逢坂に、天海が心配して声をかける。
「大丈夫っすか?」
『お前が大丈夫か。店の中でなんてことを口走ってるんだ』
「ははっ、逢坂さんって焦ると口調が荒っぽくなるの、本人気づいてます?」
『気づいてるよ。天海こそ、超高校級の冒険家なら現在地がどこなのか思い出してから言葉を選べ!』
「嬉しかったっす」
『……』
「嬉しかったっすよ。俺、逢坂さんと友達で本当によかった」