第3章 不在の代償
天海の表情が固まった。
逢坂はフォークでブルーベリーをうまく掬って、パクリと口に運ぶ。
「……なんでそう思うんすか?」
『やたら落ち着きないし、天海がここ入ろうって言ったのに、今すぐ店出たいって感じだし。気づくの遅くてごめん、早く食べちゃうね』
「ぜ、全然そんなことないっすよ。大丈夫ですから、ゆっくり食べてくださいよ」
『そんなことあるよ』
「……大丈夫っす。せっかく二人きりで遊んでるのに、ずっとそんなことばっか考えてたら一緒にいる逢坂さんに失礼じゃないっすか。俺自身も楽しくないし」
『…んー。考えちゃうものは仕方ないんじゃない?それと、特に失礼とは思わないよ。天海は妹さんのこと考えるの、楽しくないの?』
「………楽しくない、わけじゃないっすけど……俺は…ずっと過去ばっか追いかけてて、逢坂さんのこと全然知らないままなのは嫌なんすよ。今日一緒にいたからって、また明日も一緒とは限らないのに…そんな単純なことに気づかずに、逢坂さんのことないがしろにはしたくないんす」
『えっ、ないがしろにされてたの』
「今回、俺が旅から帰ってきて、でも逢坂さんにしばらく会えなくて…なんの根拠もないのに、逢坂さんがいつも俺の帰る場所でいてくれるなんて、なんて傲慢なんだろうって気づいたんすよ。君を必要としてる人なんてたくさんいるのに」
天海はぽつり、ぽつりと言葉を漏らす。
目の前のベリータルトを憎々しげに眺めて、フォークを持つ手を置いてしまった。
その様子をじっと見つめて、逢坂もフォークを置いた。
(……あぁ、本当はずっと、そんな顔をしていたのか)
気づけば天海は、さっきまで見せていた笑顔とは程遠い、途方にくれた顔をしていた。
「……っでも、どんなに楽しくても、考えないようにしても…ダメなんすよ。あー、これあいつ好きだったなって、一緒にこんなことして遊んだなって…思い出して、忘れられないんす」
天海は苦しそうに、逢坂を見つめた。
逢坂は軽くため息をついて、残っていたタルトにグサッとフォークを指して、がぶりと口に放り込んだ。
『なんで過去ってわかるの?』
「………え?」
『なんで妹さんがいる天海じゃなくて、妹さんがいた天海になってんの?』