第3章 不在の代償
天海は逢坂をリードして、おしゃれなカフェに連れて行ってくれた。
逢坂がメニューの値段と写真を見比べながら吟味している間、天海はただただ逢坂を眺めて、たまに目が合うと嬉しそうに笑った。
『天海、もう決めたの?』
「んー、逢坂さんは決めました?」
『…イチゴタルトかブルーベリータルトで迷ってる』
「じゃあ、俺はイチゴ頼もうと思ってたんで、逢坂さんはブルーベリーにしません?俺の少しあげるんで、逢坂さんのも少し味見させてほしいっす」
店員に注文してから思い至ったが、きっと天海は逢坂が決め兼ねていることに気づいていたに違いない。
その場で天海の配慮に気づけなかった自分が恥ずかしくなった。
しかし天海は配慮した功績を逢坂に気づかれなくてもどうでもいいのか、届いた自分のタルトを多めに切って、逢坂のタルトの横に並べてくれた。
「逢坂さんは何色が好きなんすか?」
「逢坂さんって、旅行は好きっすか?」
天海は普段より、饒舌だった。
二人でタルトを食べ進めながら、逢坂は矢継ぎ早に飛んでくる天海の質問に一つずつ答えていく。
質問の数が片手の指では数え切れない数になった時。
天海が遠慮がちに謝ってきた。
「なんか、すいません。喋りすぎっすよね」
『いや、たくさん話してくれて嬉しいよ』
「やっとデートの実感湧いてきて、俺浮かれてます。学校以外でも会えるなんて、夢みたいっす」
『………。』
楽しそうに、嬉しそうに。
目の前にいる彼は、何かから必死に目をそらそうと、何かを忘れようと、目の前で起きている幸せな出来事だけにのめり込もうとしている。
『……天海』
「なんすか?」
『妹さんさ、タルト好きなんでしょ』
「………」