第3章 不在の代償
「暇さえあれば飛び回ってたんで。でも今日は逢坂さんのことだけ考えるって決めたっす」
天海は眉間にしわを寄せたまま、笑ってみせた。逢坂はその天海に言葉を返すことはせず、前を向きなおる。
駅前に着いて、少しも待たずにカフェに入ることができた。
「…あれ、あの二人って」
天海の視線の先には、見慣れた二人が同じテーブルに向かい合って座る姿があった。
『……最原、楓』
二人は楽しそうに会話を続けながら、ポスターに載っているパフェをそれぞれ食べている。
今となっては、見慣れてしまった二人の姿。
しかし逢坂は、中学の頃、最原と二人で甘いものを食べに行った日の自分と、赤松の姿を重ねてしまった。
3年一緒にいたはずなのに、たった1年、クラスが離れてしまっただけでこんなことになるものなのか。
なんとも言えない閉塞感が逢坂を襲う。
昔の嫌な気持ちを思い出してしまいそうだ。
たった一人の友達に、いらない、と言われたあの時の気持ちを。
「…声、かけましょうか?」
『え?』
天海が、そう提案してきた。
二人きりがいいと言って引かなかった彼は、穏やかに笑顔を浮かべている。
逢坂の心の内を心配して、彼はそう言ってくれたのだとすぐにわかった。
『…いや、大丈夫だよ。ありがと』
「じゃあ別のもの食べにいきますか」
『え?』
天海が逢坂の手を掴み、店員に断りを入れて店の外へと連れ出した。
「俺色々今日のこと考えてきたんすよ。この店が並んでたらどこ行こうとかね。他にも気になったスイーツ屋さんあったんで、そこ行きません?」
『えっ…大丈夫だよ!この店の食べてみたかったんでしょう?』
「ははっ、逢坂さん、王馬君の嘘は見抜けるのに、俺の嘘は見抜けないんすね」
『嘘?』
「俺は別に、逢坂さんとデートできるならどこだって行きたいって言うし、なんだって食べたいって言うんすよ」
天海が照れくさそうに笑い、逢坂と繋いだ手を握りなおした。
「ね。仕切り直して、デートの続きしましょ」
『ーーー。』
逢坂はその微笑みに、ただ黙って頷くことにした。
同い年なのに、頼れる歳上のような彼の包容力は、数えきれない場数を踏んできたせいなのだろうか、なんて、ふと思ってしまった。