第3章 不在の代償
「えっ、博士は明日出かけてしまうんですか?」
『うん、そんなに遅くならないうちに帰ってくるけど…どうかした?』
「……いえ、ボクだけであの王馬クンの相手をするのはリトル不安があります」
『………家に入れなきゃいいんじゃないかな。私がいないとセキュリティは解除できないの一点張りで』
「わかりました。ではその方向で頑張るんばです」
『……キーボ、今日なんのテレビ見てたの』
「バラエティを見ていました。いろんな話し方をする人がたくさん出ていてTSNです」
『……TSN?』
「とても、参考に、なります」
『キーボ、その話し方は良くない。バラエティを見せたくない親の気持ちが痛いほどわかった、クレーム入れてやりたい』
がっくりと肩を落とす逢坂に、キーボがコーヒーを入れてくれた。
ありがとう、と受け取って、二人でリビングに座った。
「……コーヒーは苦いんですよね?」
『うん』
「でも博士はよくコーヒーを口にしますよね。苦味が好きなのですか?」
『そうだね。ハマったら好きになった。…キーボ、味覚が感じられるようになりたかった?』
「…いえ、ボクの内部にタンクを入れてしまったら、破損した時が心配ですし。それよりももっと知りたいことがたくさんあるので、今はそちらの方が気になります」
『へぇ。今一番何が知りたいの?』
「博士、ボクに触覚をつけてもらえませんか?触覚があれば、物を持つときの力の加減もわかりますし、それに…」
『……それに?』
キーボは顎に手を当てて、考え込み始めた。
思考に時間がかかっているのか、それとも場の雰囲気を読むのに時間がかかっているのか。
見た目ではわからないため、彼が話し始めるのを待つ。
『……キーボ?』
「…あ、すみません。なんでもありません」
『なに?』
「…いえ、触覚があれば、冬が寒いとか、人の体温がどの程度かもわかりますよね。もし可能であれば、味覚よりも触覚を優先してつけていただきたいです」
『…わかった。春に予算が下りるのと同時に機能拡張できるように、考えておくね』
「はい!」