第3章 不在の代償
「ねぇ、天海ちゃんはいつまでついてくるの?」
「今日俺は逢坂さんちまで送ることになってるんすよ」
「へー。どうして?」
「どうしてもっす」
放課後、1-Bの教室に王馬が現れた。
研究室にずっと入り浸りだった彼は、ほぼ毎日逢坂と一緒に過ごしていた。
しかし逢坂が学校生活に戻った後も、つきまとう気は満々らしく、さも当然と言わんばかりに逢坂と天海と帰路を共にした。
いつも逢坂と別れる交差点に入っても変わらず会話を続ける天海を見て、違和感を感じた彼は、直接厄介払いをすることにしたらしい。
「逢坂ちゃんも特に疑問に思ってるそぶりは見せなかったよね。てことは、もう約束してたってこと?」
「…実は、逢坂さんの家に直接お土産を運ぶ約束をしたんすよ。だから道を教えてもらおうと思って」
『というか、王馬もどこまでついてくるの?ずっと研究室にいたんだから、いい加減一度帰らないと』
「オレも逢坂ちゃんを送ったら帰ろうかなって思ってるよ。今日は大事な用事があるし、とりあえず微妙な面白い距離感の2人を観察してから帰ろうかなって」
ずっと?と逢坂の言葉に訝しげな反応を見せる天海から、逢坂が顔を背ける。
盛大な墓穴を掘った逢坂をにやにやと眺める王馬は、いつもどおりだ。
「……あーでもごめん、ちょっと急用できちゃった。また明日ね、逢坂ちゃん!」
振動した王馬の携帯を見て、すぐさま彼はくるりと踵を返した。
明日は土曜だよ、とその背に向かって逢坂は訂正したが、彼はものすごいスピードで駆けていく。
「彼って、本当に世界を股にかける悪の総統…なんすよね」
『え、たぶん』
「の割には、結構学校で見かけますよね」
『……うーん、神出鬼没な気がする。一時間学校へ来て早退、朝いたのに二時間行方不明になって放課後にはいるとか』
「学校の性質的に許されてんのも不思議じゃないっすけど…悪の総統なら学校なんて来なさそうなもんっすよね」
『確かにね。でもなんだかんだ友達と遊んでるの嫌いじゃないんじゃないかな』
「……」
天海の視線に気づき、信号を見ていた逢坂が視線を彼に向ける。