第3章 不在の代償
「都合いいっすよね」
『…え?』
購買に向かう道すがら。
そんなことを考えていた逢坂に向けて、天海が自嘲気味に笑った。
前を向き直った彼の横顔はなんだか、いつもよりもずっとずっと遠くを見ている気がした。
『どういうこと?』
「逢坂さん、デートに誘ってもいいっすか?」
『…デート?』
「俺が北欧に行く前、駅前の紅茶パフェの話してたの覚えてないっすか?」
『あー、覚えてるよ。新しくできたとこだよね。じゃあ最原と楓も誘っておくね』
「いや、2人で行ってほしいんすけど、ダメっすか?」
『……2人で?』
「オレらって、2人で遊びに行ったことないっすよね。仲直りの記念にどうっすか?」
『仲直り記念にデートって、普通カップルがすることでは』
「はは、そうかもしれないっすね。お土産も渡したいし、2人きりがいいんすよ。最原君と赤松さんへのお土産もあるんすけど、量が段違いなんで」
『どれだけ買ってきたの』
「登下校には邪魔なくらいっすかね」
ね、お願いします、と天海は引き下がろうとしない。
その笑顔がなんだか焦っているように見えて、逢坂は曖昧な返事で濁していたが、仕方なく最後には承諾した。
「じゃあ、土曜の朝に迎えに行くっす」
『え、家知らないよね。待ち合わせようよ』
「王馬君は知ってるんすよね?なんかそれも気に食わなかったことの一つなんで、解消しておきたいっす」
『いやいや、知らないよ。教えたことないし』
「嘘っすよね」
『……教えたわけじゃなくて、勝手についてきてたというか』
「なら俺も今日勝手についていくんで、どうぞお気になさらず」
『どうあっても引かないつもりだよね。どうしたの急に』
「……別に、今までだって逢坂さんへの好意を隠してたつもりはないんすけどね」
ぼそりと天海が呟いた。
ちょうど逢坂の隣を通り過ぎた2年の保健委員が泣き叫びながら派手に転んでしまい、逢坂がそっちに気を取られていた一瞬のことだ。
恥ずかしい体勢で地面に這いつくばっている彼女を助け起こし、逢坂は天海を振り返った。
『ごめん、何か言った?』
「……いや、なんでもないっす」
にこにこと笑って真意を隠す天海を、逢坂は少し困ったように見つめていた。