第1章 ガラスの向こうの横顔
天海とは新入生独特の「出席番号が近かったから」というなんてことはない理由で仲良くなった。
彼がやたらと学校を欠席しがちで、単独で動く個人主義的生徒であったことも、理由の一つ。
いろんなグループに所属して、居場所を探すようにグループ間を渡り歩いていた逢坂と、常に一人行動をしていた天海は、ふとした拍子に話すようになってからは、気づけばよく二人で一緒にいるようになっていた。
これは余談だが、物腰柔らかで誰に対しても笑顔を見せる天海には、学内学外共にファンクラブがあるらしい。
しかし、そんな彼と一緒に過ごしているというのに、逢坂との間には色気付いた会話は無く、一緒にいる時間に反して、天海は逢坂のことを深く知らない。
「あ、これ好きっす」
『それ?じゃあそれが一つと…』
購買に到着し、二人で品定めをする。
『これと、これ』
天海が知っていることといえば、逢坂はいつも、購買で違ったパンを選ぶこと。
そして、逢坂が何を嫌うのかという、マイナスな情報だ。
うるさい場所は好きじゃない、かといって音を立ててはいけないほど静かな場所も好きじゃない、授業はあまり好きじゃないーーー嫌いなものは生活を一緒にしていると、なんとなくわかってくる。
しかし、逢坂の好きなものがいつまで経っても掴めない。
『天海、これ買わなくていいの?』
これ。
逢坂がそう称したものは、購買のラインナップに、たまにしか入ってこない天海の好きな菓子パンだ。
逢坂はそれを指差して、提案をしてきた。
「え?…あ、今日は入荷あるんすね!じゃあそれは自分で買うっす」
『うん。これ、お願いします』
(………なんか)
「ずるいっす」
『……え?』