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【王馬小吉】出演者達に休息を(ダンロンV3)

第3章 不在の代償




「はい」
『……え?』


昼休みに入ったところで、天海は逢坂に話しかけて来た。
授業など全く聞かずに一日中ずっと天海にどう話しかけようか思案していた逢坂は、拍子抜けの彼の態度に目を丸くさせた。


『……なに?このノート』
「逢坂さんが休んでた間のノートっす。理系の教科はノートなんてなくても大丈夫だと思うんで、文系の教科だけまとめておいたんで」
『………ありがとう』
「いつもは逢坂さんがやってくれてることっすよ。俺が旅に出てない間も、まじめに授業受けてほしいっすけどね」


いつものように、天海は逢坂の前の座席を借りて腰を下ろし、逢坂の机に自分の昼食を広げた。
まだなんとなく気まずい雰囲気に戸惑いながら、逢坂はとりあえず自分のペットボトルに口をつけた。


「購買行かないんすか?」
『……え、行く』


いつも通り、天海は逢坂についてくる。
普通を装うことに徹しているようだが、他人の機微を伺うことに長けている逢坂は、天海の空気がやはり、いつもと違う事に違和感を感じてしまう。


『……あのさ、天海』
「もう謝んなくていいっす。目くじら立ててる俺がおかしいってわかってはいるんで」
『おかしいとは思わないけど。…なんというか、次からは気をつけるよ』
「…フォローしてくれなくても大丈夫っすよ。逢坂さんは俺の妹でもないのに、保護者面っつーか…すみませんでした」
『今回の旅はどうだった?』
「今回も特に収穫なしっす」
『そうかぁ。また旅に出ないとね』
「……逢坂さんは、俺に諦めろって言わないっすよね」
『言って欲しいの?』
「いや、その逆っすよ」


ありがたいっす、と無理して笑う天海の表情を、逢坂はこの一年、何度も見てきた。
天海は、諦めずに何度も何度も妹たちの面影を追いかけては、ふと思い出したかのように逢坂のもとに戻ってくる。
どれだけ目を凝らしても、走り回っても、その消息がつかめないほど曖昧な存在を追い求め続けるのは、彼の心にはどれほどの負担なのだろうか。
天海は語らないが、旅先で酷い目にあったり、命からがら帰ってくることも何度もあったに違いない。

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