第3章 不在の代償
『あっ、ごめん……』
端に避ける逢坂の横を通って、ノートを持った天海が教室から出て行く。
いつもと違う彼の雰囲気に、最原たちも息を飲んだ。
「あ、あれ…今朝はあんな感じじゃなかったんだけど」
「…うん、もしかすると結構長期戦になるかもね」
『えぇー……』
私が何をしたっていうんだ、と言ってやりたかったが、天海の事情を知っている立場上、確かに自分に非がある気がしてきた。
『……ねぇ天海、待ってよー』
最原たちから離れ、まだ姿が見えていた天海の後を追う。
彼はちらっとこっちを一瞬見たが、待とうとは思わないのか、スタスタと廊下を歩いていってしまった。
「あ、逢坂ちゃんだ。さっき別の教室に分かれたばかりなのに、またオレに会いに来ちゃうなんてかーわいいなぁー!」
廊下で獄原をからかって遊んでいたらしい王馬に見つかった。
抱きつこうとしてくる彼から大幅に距離を取り、曲がり角を曲がってしまった天海を追いかける。
その塩対応に単にイラついたのか、珍しく焦っている逢坂に興味を持ったのか、王馬は何かを考えた後、すぐに追いかけて来た。
「ねぇ酷くない?せめて声かけるとか一回抱きつかれておくとか色々心ある対応できるじゃん」
『ちょっと今構ってられないから、また後で!』
いよいよもって王馬の不機嫌を買ったらしく、顔色を変えた王馬は息を大きく吸いこんだ後、立ち止まって声を発した。
「別にいいけどさぁ!次は天海ちゃんに必要とされたいんだーそっかそっかぁ、でもさみしいなぁあんなことやこんなこと、オレはキミだから許してあげたんだけどなぁーーーあーー冬の廊下って寒いなーーそれよりも逢坂ちゃんに弄ばれた心が寒いよー!」
ホームルームに向けて、周りの教室の生徒たちが机に座って静かに談笑している中、王馬の声が廊下を伝って、いくつもの教室に響き渡る。