第1章 ガラスの向こうの横顔
「あー、だから窓に向かって手を振ってたんすか?」
『…見てたの?』
「俺も授業飽きてきちゃった頃だったんで。ここから見える教室となると、1-Aっすね」
昼休憩の五分を使った教師の叱責が終わり、机に突っ伏していると、逢坂の座席の隣に座っている天海が話しかけてきた。
『別にさぁ、いつも不真面目なわけじゃないんだからよくない?』
「俺の知る限りいつも不真面目な印象っすけど。なんつーか、それで成績良いのが教師陣としては困りものなんじゃないっすか?」
『学校現場の闇だね』
「ははっ、熱心な教師と不真面目な生徒だったら、今確実に闇を生み出してる側の人間は逢坂さんっすよ」
『……』
何も言い返せず、悔しくて。
天海の手を掴んで、彼が持っていたあんぱんをガブリと食いちぎった。
「えぇー…なんでっすか?あんぱんに罪はないでしょ」
『……お腹すいた』
動物的本能に身を任せないでくださいっす、と逢坂は天海にたしなめられる。
けれど、そのあと天海は「欲しかったら言ってくれればあげるんすから」と、あんぱんを千切って逢坂の方へと渡してきた。
結局、半分ほど逢坂の胃の中にあんぱんは収まってしまうことになったのだが、天海は特に気落ちしている様子はない。
彼はいつも逢坂を甘やかしては、幸せそうに笑った。
『なにか買ってこようかな』
「俺も購買行きます、パン一つじゃ足りなさそうなんで」
『…そうだね、パン1/2じゃ足りないよね。何かお詫びに買ってこようか』
「いいんすよ、なにあるか見てきたいんで、俺も一緒に行くっす」
『じゃあ一個何かおごるよ』
「ははっ、反省してる」
そんな他愛ない会話をして、2人で1-Bの教室を出た。