第22章 キミの絶望という名の希望に微笑む
「ちょっと、落ち着いて逢坂さん。下手に動いて瓦礫の山が崩れたりしたら、ボク達だけじゃなく他の瓦礫の隙間で生存してる人達まで下敷きになっちゃうよ」
『っでも』
「今ボク達にできることは、息を殺してジッと耐えることなんじゃないのかな。真っ暗で何も見えないってことは、この隙間は酸素が無限じゃないってことなんだし」
友達が心配なのはわかるけどね。
そう狛枝は逢坂に共感し、ははっ、と不謹慎にも小さく笑ってみせた。
『…取り乱してすみません…』
「仕方ないよ。日常生活でこんな出来事に巻き込まれるなんて、普通はないからね」
そういう狛枝の表情は逢坂には見えないが、声色だけで判断するのであれば、彼の気分は普段と変わらないか、それ以上に高揚しているかのような印象を受ける。
その違和感をいぶかしんでいると、狛枝はまた口を開き、今度は逢坂の顔の前ではなく、耳元で囁くように話しかけてきた。
「身動きが取れないとはこのことだよね。…それはそうと、逢坂さんの髪って…」
『…髪?』
スンスン、と。
耳元で、狛枝が小さく鼻を鳴らした。
「…想像より、すごく甘い匂いがするんだね…」
『不可抗力的に、私に密着してるんですよね?』
「もちろん。超高校級の幸運なんてゴミみたいなボクの才能じゃ、背中だけで重力や瓦礫を吹き飛ばすなんてできないよ」
『別に、吹き飛ばせとは言わないですけど…』
「え?あ、そっか。さすがに距離が近すぎるよね。キミに異性として意識してもらえるなんて光栄だよ!…でもまてよ…ボクにとってはすごくラッキーなワンシーンだけど…こんなところ王馬クンに見られたら今度こそキミと一緒に殺されちゃうし、もしかするとその不幸の前触れなのかな」
『え?…王馬はそんなに暴力的じゃないですよ。殺すなんて…』
はた、と。
逢坂は話すのをやめ、口を閉じた。
一向に言葉の続きを発さない彼女の様子を暗闇からじっと観察し、狛枝は彼女に問いかけた。
「どうしたの?逢坂さん」
『…私と一緒に?』
「…え?」
『今、言いましたよね。キミと一緒に殺されちゃうかもって』
「…………あっ」
『あ、じゃなくて』
「しまった、この密着度合いがたまらなさすぎて、ついうっかり…!」
『これ不可抗力なんですよね?』
「もちろん」