第22章 キミの絶望という名の希望に微笑む
「……ねぇ………」
距離はわからない。
けれど確実に、どこかから金属音が鳴り響いている。
なんてことはない、その音が自分の耳鳴りだと気がついたのは、意識が戻って数分後。
「…聞こえる?」
どこかの誰かが私に話しかけている。
意識はあるのに、身体が動かせない。
把握できない。
自分が今、どのような状況にあるのか。
この声の持ち主は一体誰で、どこから私に呼びかけているのか。
瞼を押し上げても、視界が真っ暗闇なのはなぜなのか。
ようやく理解できたのは、さらに数十秒後。
「ねぇ、大丈夫?」
『……う……』
吐息のかかる距離から私の顔を覗き込んで、心配そうな声を発している「彼」に心当たりがある。
視界がおぼつかないせいで、手掛かりはその中性的で特徴的な声だけだ。
『……狛枝先輩』
確信的に名前を呟くと、異様なまでの至近距離から彼の返事がすぐさま返ってきた。
「ごめん、欲望に身を任せてキミにここまで密着しているわけじゃないんだけど…何せ、この状況だから身体の自由がきかなくて」
『……え』
ふと気づけば、重力が身体の「前面」にかかっている。
どうやら自分の身体は重たく横たわっているらしい。
その身体の前面から感じる微かな熱は、狛枝先輩の身体の体温だというのだろうか。
地面に仰向けに倒れた私の上に、狛枝先輩が覆い被さっている。
なぜって?
理由はきっと、あの出来事だ。
『…瓦礫から庇ってくれたんですか。私を…』
「うーん…これ、庇ったことになるのかな。幸運にも即死は免れたけど、瓦礫の山に埋もれたままじゃ、ボクもキミも危ないんじゃない?」
『……ですね』
のうのうと享受しつづけていた日常が、あの爆発の瞬間、非日常へと姿を変えた。
「…だいぶ参ってるみたいだね?それはボクも…ううん、他のみんなだって一緒だよ」
『…みんな?』
みんな。
狛枝が発したその言葉に、ぼんやりとしていた意識が覚醒し、あわてて身体を起こそうと頭を持ち上げた私の額と、おそらく、狛枝先輩の額がゴツリと音を立ててぶつかった。
『っ!』
「いてっ!」
また横たわった私の両方の耳元で、砂利が擦れる音が聞こえる。
狛枝先輩は痛みに身じろぎながらも、私の身体を自分の体重で潰すわけにはいかないと思ったのか、私の顔の横に置いていた両肘を、しっかりと置き直したようだ。