第21章 生かせ生きるだけ恨まれる
「君、聞いたことない?文明が発展しすぎて、その国に属していた民族が絶えた…とかそういう話」
それと似たようなことだよネ、と。
独りごちて、うんうん、と頷いている真宮寺に対し、逢坂が困った顔を向けた。
『んー。…歴史詳しくないんだよね』
「代表例で言うとさ……」
首を傾げた逢坂とシンクロするように、真宮寺も首を傾げ、視線だけを自身の斜め右上へと向ける。
少しの熟考の後、真宮寺がまた視線を逢坂に戻し、首を元の位置に戻した。
「………天空の城ラピタ」
『そこはもう少し民俗学者の専門的な例を出して欲しかった』
「へえ…!欲しがるネ…!」
『欲しがってはいないけど、どちらかと言うと私が「へえ…!」って言わせてほしかったよね』
真宮寺が「もぉ、やっだぁ」と言わんばかりに、虚空を叩いた。
その仕草にどうしてもオネエ的な要素を感じ取ってしまい、逢坂がステージの方へと向き直る。
「逢坂さん、真宮寺クン。ボクも話に混ざっていいかな」
『あ。こんにちは狛枝先輩』
「…あぁ、一向に構わないヨ。けど僕はこれから仕事だから」
朗らかに笑って近づいてきた狛枝を確認し、「じゃあね」、と話の途中で手を振って立ち去る真宮寺。
逢坂は慌てて彼を引き止めようと声を発した。
『え、まって。結局今の話は…!』
何が言いたかったの、と。
逢坂が言い終わる前に、真宮寺の背は食堂の出入り口から消えていってしまった。
「ごめん、話の邪魔しちゃったみたいだね。どんな話をしてたの?」
『……キーボに、学会で話をさせるのはやめたほうがいいって』
「へぇ。それってどうして?」
『…そこを聞きたくて。ラピタとか人類の歴史の終わりとか、よくわからないことばかり言われて、煙に巻かれました』
「そうなんだ。せっかくのシンキングタイムに水を差すようで申し訳ないけど、どうせなら逢坂さんももっと楽しめばいいのに」
『……え?』
「打ち上げの最中、ずっとしかめっ面してる」
そう言われて、ようやく。
逢坂は狛枝と話をしている間もずっと、手元に持ったグラスの水面に映る自分の顔を見下ろして、彼と視線を合わせていなかったことに気がついた。