第21章 生かせ生きるだけ恨まれる
「おいおいハルマキ、テメーそのデザートの山の上にまだなんか乗っけようとしてんのか」
隣のメインディッシュコーナーに立っていた百田が、苦笑しながら春川の手元をトングで指差した。
いそいそと器用にすでに出来上がっていた高い高いデザートの山の頂上へ、パンケーキを重ねていく春川は、百田へ視線をやる余裕は流石にないのか、言葉だけで応戦した。
「…うるさい。百田だって、まだその肉の山に肉乗せる気なの?」
「おう!このぐらい余裕だからな」
「バカじゃないの。食べ終わってからまた取ればいい話じゃん」
『魔姫、ブーメランって知ってる?』
盛り付けなんて度外視の二人が、まるでジェンガを楽しむかのように好き勝手なところから肉とデザートに箸をつけ始めた姿を、ハラハラとしながら見守っていると、聴き馴染んだ音楽が聞こえてきた。
(……あ。この曲)
心地よい音楽につられて、食堂に設置されたステージへと視線を向ける。
そこにある大きなグランドピアノを奏でている赤松は、とても幸福そうな微笑みを浮かべていた。
曲名を思い出そうと逢坂が考え込んでいると、隣に立っていた真宮寺が助け舟を出してくれた。
「月光、じゃないかな」
『それだ』
「クク…あんなにハツラツとした子が、こんなに静かな音も奏でられるんだから、人間って不思議だよネ。……あぁ、本当に美しいヨ」
友達になってほしいなぁ。
そう呟く真宮寺に、逢坂は笑って「もう友達でしょう?」と言葉を返した。
彼は目元を細めて笑い、あぁそうそう、と話題を変えた。
「あのさ。学会でロボットに話をさせるのはやめた方がいいヨ」
『え?どうして?』
「君のような人間がすべてってわけじゃないからネ」
『…私のような?』
「……おや?」
不思議そうに真宮寺を見上げてくる逢坂を見下ろし、彼はまた目を細め、瞑目した。
「……クックック、驚いたよ。あぁ、そうか、でもそうなのかもしれないネ。人類学上、世界を変えようとする人間が必ずしもその自覚を持って、歴史に終止符を打つとは限らない」
『…歴史に終止符?どういうこと』