第21章 生かせ生きるだけ恨まれる
あの時。
二人揃って、「何か」から逢坂を遠ざけようとしたのは明白だった。
王馬に問い詰めたくとも、本業が忙しいのか、はたまた忙しいフリなのか、一向に二人きりでゆっくり話せるタイミングがやってこない。
つまりは、学校でも、逢坂の家でも、まだ彼の姿を見かけていない。
開校日はまだ1日しか経っていないと考えるのが自然だが、理由も告げず、週末でさえ彼が逢坂の家に姿を現さないのは不自然だ。
最原に関しても少し気がかりな点がある。
教室でじっと読書をして過ごすことの多かった彼は、なぜか体育祭明けの本日、学園内の至る所で学年男女問わず立ち話をしている姿が見受けられた。
その横顔は真剣そのもので、学生としての彼の顔つきというよりは、探偵の卵としての彼の顔つきといった方がしっくりくるような。
「雪、ここにいたんだ」
『…魔姫。パンケーキ食べた?』
「…パンケーキ?………」
『うん』
「……………………」
『…ふふ、連れてってあげる』
テラスへと現れた春川は、デザートの乗った大皿を両手に軽々と掲げて、珍しく、ほんの少しだけ、そわそわとしているように見えた。
パンケーキ、という可愛らしい単語に目を輝かせた彼女の表情を見て、逢坂はクスクスと笑いながら、彼女と一緒に室内へと戻った。
「うっはーーー!!!これ、めちゃくちゃうまいな!!うまーー!!!!手が止まんねー!!!」
「お、終里さぁん…ゆ、優勝したクラスの子たちより、食べちゃダメですよぅ…」
「まったくだよ二人とも!ボクが夜なべして可愛い天使たちの為に作った料理を、代金も払わずに食べないでくれるかな!」
「えっ!?お、お金払わなきゃいけなかったんですかぁ…!?ご、ごめんなさぁい!!勝手に食べてごめんなさぁい…!!!お金、お金払います…!だからぶたないで…!」
「ンフフフ。それじゃあ、食べ放題飲み放題料金、しめて」
パンツコイン1枚支払ってもらおうか、と白昼堂々ハラスメントに勤しむ花村に対し、「お安いもんだぜ!」と終里がスカートに手をかけ始めた。
弐大のアッパーカットがシェフの下顎部にクリーンヒットしたのを確認し、逢坂と春川は並んでパンケーキを皿に取り始めた。