第20章 あやまった探偵
パンを口に咥えたら、中にふんだんに盛り込まれていた大量のわさびが舌先を刺激した。
「いひゃい!!!!」
「え、なになに。どうかした?」
「…わさび…」
「へー!オレも食べたーい!」
「えっ」
少し取って、と彼がせがむので、僕はパンを一部引きちぎり、彼に手渡した。
「ありがと!」
彼は僕の手からパンを取って、そのまま僕の手を握った。
「え?」
「……うわ、かっっっら!!あーーでもちょっとこの苦味炭酸に似てる気が…あれっ、似てないなぁ、ていうか辛さとれなくない…?痛い……ひどいよ最原ちゃん…オレにこんなもの食べさせるほど嫌いなの…?」
「へっ!?自分が食べたいって言ったよね!?」
ゴールに向かって、僕の手を引いて駆け出した王馬くん。
ようやく、ペアらしくなった。
安心した僕の横顔を盗み見て癪に触ったのか、王馬くんは空いている方の腕で自分の目を拭いながら、叫んだ。
「うわぁあああんん!!!最原ちゃんがオレにひどいことして全然歩み寄ってくれなぃイイゥビアバィ!!!!」
「最後なんて言ってるかわかんない、逢坂さんに聞こえる声で泣かないで!!!」
ワンワンと泣きながら飛びついてくる王馬くんを抱きとめた逢坂さんは、レースに興じる僕たちを見ていてくれたらしく、全く焦ることなく王馬くんを慰めるフリをしていた。
彼女に抱きついたまま、彼女に頭を撫でられている彼を見て。
僕は、羨ましいなぁ、と呟いた。
「さっ、最原くん!」
「……え?」
Tシャツの襟元をパタパタしながら、横を見やると、そこには顔を真っ赤にした赤松さんが立っていた。
「どうぞ!」
「………………へ?」
バッ、と。
彼女が急に下を向いて、僕にそう言った。
「……えっ、どうぞって……」
(……あ、聞かれてた?)