第20章 あやまった探偵
「ねぇ、なんで帽子被ってるの?」
高校に入学して、初めて赤松さん以外の生徒に声をかけられた。
自分の席でうつむきながら本を読んでいた僕の視界に、彼は急に割り込んできた。
「うわぁっ!」
「え。そんな驚かなくてもいいじゃん。…もしかして…オレの顔に見覚えでもあるの?」
「…えっ、い、いや…覗き込んでくるから…」
「なーんだ。ねぇねぇ、最原ちゃんはなんでいつも帽子被ってるの?」
「…それは…」
興味津々といった様子の王馬くんに。
人の、視線が怖くて。とは言えなかった。
「……えっと…頭に…」
「うん」
「10円ハゲが…」
「嘘だぁ」
「ほんとだよ」
「たっはー!最原ちゃん、笑っちゃうくらい嘘下手だねー!ハゲてんなら、黒マーカーで塗りつぶしとけばいいだけじゃーん!」
「えっ、それは頭皮的にどうなのかな…」
「えぇっダメなの!?オレなんかしょっちゅう塗り潰してるよ」
「しょっちゅうハゲてるの!?」
「当たり前でしょ?」
「な、なにが当たり前なの…!?」
「オレは、王馬小吉。超高校級の総統なんだー、よろしくね!最原ちゃん!」
「…え……うん、よろしく」
もうクラスメートの名前を覚えてるんだ。
すごいな、なんて思った。
「ねぇねぇ聞いてゴン太、最原ちゃん10え「待って王馬くん!!嘘だよ!!嘘だから!!!」
彼が獄原くんに駆け寄って、躊躇いなく僕の10円ハゲ説を公開しようとするから、僕は慌ててその背を追っかけた。
急に動いた僕の頭からは、風に煽られた帽子が落ちた。
王馬くんは僕が必死に弁明をする間も、その床に転がった帽子を眺めて「にしし」と笑っていた。
彼は嵐のように僕のもとへ襲来しては、すぐに姿を消した。
「最原ちゃーん、やっほー!」
「えっ、王馬くんどこぶら下がってるの!?」
「木の上」
「なんで!?危ないから降りて!」
目を離すと、彼はやたらと高いところに登りたがった。
それも僕が通りすがるベストタイミングで声をかけてくる。
「最原ちゃーん、見て見てー」
その度僕は左右を見渡して、ため息をつく。
そして帽子のつばを持ち上げて、上を見上げる。
「…王馬くん、そんなところ登ったら危ないって」
「すごくない?オレ超高校級のサーカス団でもいける気がするよ!」