第20章 あやまった探偵
ペアを組んだ者同士は、ゴールするまで手を離してはいけない。
そんなルールがあることに逢坂は直前になって気づいたのだが、わさわさしていた茶柱はやはり、盲点となったらしい。
彼女はペアとなった狛枝に先程から暴力行為を行っており、一向に二人仲良く走り出そうという気配が見られない。
あわや失格となりそうな勢いだ。
「お、王馬くん。いい加減手をつないでよ」
「やーだよ!一人でゴールした方がまだマシだね」
「別にいいけど、目立っちゃうよ」
天海が宙に向かってぶちまけたペア決めの番号札。
男女別に分けられていたそれがバラバラに散らばったことにより、1組女子同士のペアができてしまった。
最原と王馬の後方には、競技とはいえ男死と手をつなぐことを断固拒否している茶柱と、人的不運に見舞われている狛枝しかいない。
(せっかくペアになる番号札、持ってたのに…!!!)
王馬には、強運の持ち主である狛枝に彼女のペアを譲らない確信があった。
天海が現地調達したペアの番号札を、既に隠し持っていたからだ。
しかし、こうなってはどうしようもない。
「…………その前にさあ、オレに言うことあるんじゃないの?」
棄権はポリシーに反するため、仕方なく走っていた王馬が、レース終盤でピタリと足を止めた。
くるりと振り返った彼の真剣な表情を見て、最原は数秒だけ息を整えた。
けれど、もう躊躇ったりはしなかった。
「ごめん」
「…はー?聞こえないんだけど。王馬様ごめんなさい、僕はこれからキミの下僕ですってもっかいちゃんと聞こえるように言ってよ」
顔を赤くしながら、文言を呟いているらしい最原に近寄り、王馬が彼の顔に耳を近づけた。
「……僕は…これから」
「これから?」
「……これから、キミが間違ったことをしてたら、何度だって言うよ。それは大切にできてないって。逢坂さんが困ってるって」
「………は、何」
「でもキミが大切にしようとしてることも知ってるし、僕が知らないところでキミは頑張ってるんだろうから」
今度は、良いところもちゃんと。
良いと思うよって伝えるから。
そう最原はうつむきながら告げて、被っていない帽子のつばを持つような仕草をしたあと、バツが悪そうに、その手を自分の背に隠した。
「…あんな言い方したけど、僕は結構、キミのこと嫌いじゃないから」