第20章 あやまった探偵
誰かを好きになってしまうと、自分が自分らしくいられなくなってしまうのはなぜだろう。
「逢坂さん!俺とペア組みましょ」
好きになってほしくて。
好きでいてほしくて。
けれど、どうすれば好きになってもらえるのか。
どうしたら好きなままでいてくれるのか。
正解など存在しない。
頑張ったからと言って、誰にでも愛されて、努力が報われるような世界ではないから。
そんな夢も希望も、そう易々とは手に入らない。
『番号札、ばらまいてなかった?全部めくるってありなの?』
「ありってことでいいんすよ。はい、2番のカード。俺も2番なんで、これでペアっす」
誰かを好きになって。
自分が自分らしくいられなくなったとして。
それが正しいことなのか正しくないことなのかは、わからないけれど。
『ファンがドン引いてるけど…い、いいの?』
「はい、それより」
キミが好きだ。
「なんつーか…俺は順位気にしないんで、逢坂さんが楽しめればそれでいいっす。逢坂さんのペースで走りましょ。せっかくなんで」
その気持ちは、キミを振り回していい理由になんかならない。
『…ありがと』
「なんてことないっすよ。俺は一番の友達っすから」
「ハハッ、俺パン食い競争やってみたかったんすよ」
『天海の他に食べた人たち悶絶してるけど、天海は平気なの?』
「多分わさびが大量に入ってました。いい感じにミスマッチっすね」
『いい感じにミスマッチってどっち?』
競技というより、レクリエーションと表現する方が正しいようなローペースで障害物競争を終えた逢坂と天海。
舌先の刺激に悶えてもおかしくないはずの天海が、なぜかホクホクとした顔で談笑を続けているのが、逢坂にとっては不思議で仕方ない。
(…あ、そっか。これか)
逢坂は未だに天海の左手と繋がれたままの右手を眺めた。