第2章 超高校級のロボット博士
「どうしちゃったの?怖い夢でも見た?」
問いかけてくる彼は、やはり普段とはどこか違う雰囲気だった。
声も落ち着いていて、いつものような無邪気さは感じられない。
夜に見るせいかもしれないが、彼の立ち振る舞いからは高校生よりももっと大人びた、人の上に立つような貫禄すら感じ取れた。
「ま、たまには泣くのも精神衛生上良い薬だけどさ。でも理由が知りたいな。どうしたの?」
『……昔の夢を見て、センチメンタルになっただけだよ』
「それって昔の自分を追体験した夢?それとも過去を振り返ってる自分が客観視してる夢?」
『……どちらでもいいんじゃない?』
「どちらかなら、逢坂ちゃんはきっと悲しい過去があったんだね」
『……』
ドサッと、ソファの空いたスペースに王馬が座った。
『王馬はさ』
「うん?」
『私の親友?』
「親友…?なわけないじゃん!」
『…そうだよね』
「大大大親友でしょ!何勝手に格下げしてんのさ。そんなこと聞いてくるなんてやっぱりいつも通りじゃないよね」
『……いつまで?』
「なにが?」
『いつまで必要としてくれるの』
自嘲気味に、疲れ切った笑みを浮かべる彼女。
月明かりに照らされる彼女はとても妖艶で、美しい。
しかし王馬には、それが腹立たしくて仕方がなかった。
「………。」
きっと、彼女は知らない。
自分がどれほど乱暴な美しさを持っているのかも、その内に秘めた才能の素晴らしさも。
だから平然と、王馬を煽る。
惑わせる言葉を使って、その心を試すような真似ができる。
本当に自分を自覚している人間なら、そんなことはしない。
この学園には、彼女を世界から引き離して、陽の光も音も届かない部屋で自由を奪い、ゆっくりと隅々まで堪能したいと思っている輩など、掃いて捨てるほどいるというのに。
「…さぁね」
所在無さげな彼女を抱きしめた。
一方的に利用されるのは悔しいから、彼女の耳元で良心に刺さる言葉を吐いてやることにした。