第2章 超高校級のロボット博士
ぼんやりと意識が戻る間、誰かが自分の額に触れている感覚に気づいた。
ゆっくりと目を開けると、自分の寝ているソファに肘をつきながら、王馬がじっと見つめてきている姿が目に入った。
「泣かないで。もう大丈夫だよ」
彼は、普段逢坂が聞いたことのない優しい声をかけてくれた。
額の上に置かれた彼の華奢な手は、ゆっくりとなだめるように、逢坂の頭を撫でてくれている。
『……王馬』
「大丈夫だよ。オレが側にいるからね」
目元が熱い。
なのに、濡れているみたいだった。
今までの夢を思い出して、視界がさらに潤んだ。
どうやら悪夢にうなされて泣いていたみたいだ。
また一筋、伝った涙を、王馬が反対の手の指でこすり取ってくれた。
「逢坂ちゃんはきっと、疲れると泣き虫さんになっちゃうんだね」
『………知らないうちに寝てたんだなぁ……』
身体を起こすと、窓から見える空の色はもう暗く、時計を確認しても深夜近い時刻だった。
隣の研究室から、溶接作業中の音が微かに聞こえてくる。
どうやら左右田はいよいよもって、締切に間に合うかどうかの瀬戸際らしい。
ただただ柔らかく笑っている王馬に視線を戻し、視界の端に入ったメモに目が止まる。
<起きたら一度連絡入れといてください。遅くまでいたんですけど、警備員巡回が来るそうなので先に帰りますね。あんまり根詰めないで、学会頑張ってくださいね。 天海>
<おつかれさま!学会頑張ってね、風邪引いちゃだめだよ!楓より☻>
<逢坂さんおつかれさま、学会応援してるね。できれば、心配していたので連絡をくれると嬉しいです。最原>
付箋に書かれたそのメッセージを読みながら、ポロポロと溢れていく涙を、自分の袖口で雑に拭う。
右目も拭おうとした時。
王馬に手を掴まれた。
彼はじっと真顔で見つめてきて、自分の袖口をぐいっと引っ張ると、逢坂の涙を拭ってくれた。