第20章 あやまった探偵
パァン!と、ピストルが鳴った瞬間。
天海は誰より速くスタートダッシュを切り、全速力で駆け出した。
好きな子とペアになりたい。
そんな欲望に身を任せ、その他の女子の黄色い声援をガン無視し、真顔で全力疾走する超高校級の冒険家の姿を、誰が想像しただろう。
(えぇ……天海すごいやる気……)
そんな彼の意中の相手は、彼の勇姿をはっきりと見ていられるほどにタラタラと走っている。
だからこそ、気づいた。
天海以外の男子の先頭集団も、逢坂の見知った顔であるということに。
そして、彼らもまた、ものすごい勢いでこちら側へ駆けてきているということに。
天海が駆け出した直後。
突如として牙を剥いた友人を見て、驚いた最原の隣。
先頭から抜き出ている天海の背を見て、何やらハッとした狛枝も全力疾走し始めた。
(…そ、そんなに逢坂さんと、ペアになりたいのかな?でも逢坂さんが引いた番号がわからないと、ペアにはなれな…)
そう、最原が打算した直後だった。
天海が中間地点に誰よりも早く到着し、地面に裏返しのままばらまかれていた番号札を全て回収し始めた。
男子の分だけではなく、女子の分も全て。
「嘘でしょ?」
「……えっ」
ほんの数秒、最原と並走していた王馬が急にスピードをあげ、一瞬で最原を置いてきぼりにした。
そして。
「それは反則じゃん!!!!」
確実に本音だろう。
そうわかる声量で、シャウトした。
この競技にだけ出ると言って聞かなかった彼が、らしくない言葉を吐き、珍しく焦った顔をしている。
最原にはその光景が新鮮に映り、相反して見知った光景の様にも思えた。
天海は男女の番号札から数字が被っている二枚だけを手元に残し、その他の番号札をおおきく振りかぶって宙に投げ、ばらまいた。
「天海クン大人気ない!!大人気ないよ!!!」
「俺、狛枝さんより歳下なんで!」
近年稀に見る、荒れた天海だ。
おそらく、最原のキス騒動が結構なストレスとなったに違いない。
「天海ちゃんタイム!!!」
「待たない!」
最原は、そんな天海に追いすがろうと走っている王馬の横顔を見て、なんだか足を止めてしまいたくなった。
ーーーあぁ、やっぱり
胸に浮かんできたのは、そんな中途半端な言葉だけだった。