第20章 あやまった探偵
「いやぁ死ぬと思ったよね、そう思ったでしょ?でも残念でしたー!数十分後オレは息を吹き返し、見事復活を果たしたのでした!」
「…王馬くん、誰に話してるの」
「もっちろんオレの命の恩人、最原ちゃんに決まってるじゃーん!命の恩人ついでにパシられてくれる?もう昼休みの時間でしょ?毒消化したらお腹空いちゃってさー」
「…毒消化って…あぁもうツッコミどころが多すぎて…」
50m走が終わった後。
天海くんに言われたことを考えたくて、一人、熱気に沸くグラウンドと体育館から出来る限り離れた。
そしたら偶然。
人気のない校舎で、一日中彼女の側を離れずにいたはずの王馬くんの姿を見かけた。
きっと、また何か悪巧みでもしているんじゃないか?
そう思って彼を観察していたけれど、どうやら、王馬くんはそこで毒見をしようとしていたらしい。
「…逢坂さんが探してたよ。そのスポドリ、逢坂さんのなんでしょ?」
保健室のベッドを一つ占領しながら、王馬くんが毒の入ったペットボトルを布団の上で弄んでいる。
彼はさっきまで真っ青な死人のような顔をしていたのに、口に含んだ毒が微量だったことが幸いしてか、今は「お腹すいた」「このまま寝ちゃいたい」「雪ちゃんのところへ行きたい」と自身の三大欲求を余すところなく披露し続けるほど生気を取り戻している。
「ううん、これはオレが最原ちゃんに毒を盛ろうと思って用意してたやつだよ!ちょっと興味本位で舐めたりなんかしなきゃよかったよねー。そしたら今頃、ちょうどいい人気のない校舎でオレと最原ちゃんが出くわして、「仲直りの印にあげる!」なーんて言ってこれをあげれば、見事毒殺も夢じゃなかったのにね?」
「…また、君のせいで逢坂さんが危険な目に遭うところだったんじゃないの?」
「うわぁ、せっかく歩み寄ろうとしてあげてるのに話の腰折りまくりだね。つまらないなぁ」
「ねぇ、答えてよ。君はどうしてそこまで…逢坂さんを危険に晒してまで、彼女の側に居ようとするの?どうしてそ「35回」………え?」
僕の言葉を遮って、彼は一つの数字を口にした。
「……35回?」
「さぁ、なんの数字でしょうか?」
「…なんだっていい、僕が今聞いてるのは」
「だからさ、なんでそこまで側にいるのかって聞いたでしょ?」
「……え?」