第20章 あやまった探偵
結局、押しに押した女子卓球ダブルスは見事大敗し、トーナメント初戦での敗退となった。
まぁわかってはいたことなので大して悲嘆にくれることもなく、大人しく次はクラスで個人競技の50m走に参加した。
なかなかのカメ速度でゴールを決め、キリキリと痛む脇腹を押さえてグラウンドから水飲み場までゆったり歩いていると、一人の生徒が声をかけてきた。
「逢坂さん、おつかれ!水飲み場まで行くの遠いでしょ?俺のスポドリあげるよ」
『……え?いや、大丈夫。ところでどちら様?』
「これ買ったはいいけど次試合でさ!受け取って」
その男子生徒はまくしたてた後、雫がたくさん付着したペットボトルを押し付けてきた。
口ぶりからして顔見知りのようだが、逢坂には彼の名前が思い出せない。
『ねぇ、クラスは……あ、いない』
追いかけようとしたが、すでに遅かった。
彼は人の波をかき分け、姿を人混みへと隠してしまう。
(…ありがたいけど…)
手元に残ったペットボトルの感触は、ひんやり冷たく心地良い。
濡れた手元を眺めていると、グラウンドの端に来ていた逢坂を、レーン近くに立つ赤松が呼ぶ声が聞こえた。
「雪ー、男子の方の50m走終わったらみんなでご飯いこー!」
『…うん、わかったよー』
彼女の方を振り向きながら、スポドリを開封して口につけようとした時だった。
「ちょうだい」
『……えっ?』
どれほどの全力疾走をしてきたのだろう。
つい先ほどレーンを走っていたはずの王馬が、逢坂のすぐ傍に立っていた。
半分叩き落とす勢いでペットボトルを持つ逢坂の手を掴んだ王馬は、断る一瞬の隙も与えることなく彼女からスポドリを奪い取った。
「ちょうだい?」
にこやかに、朗らかに笑っておねだりしてくる王馬の表情を見て、逢坂は違和感を感じた。
『どうしてほしいの?』
「喉渇いちゃって。いいでしょ?あとで新しいの買ってあげるよ」
『………どうして?』
「なんでだっていいんじゃない?」
『………』
試しに、頷いてみると。
「やったー、ありがと雪ちゃん!じゃああとで返すからね!」
王馬は大げさに喜んで、すぐさま人の多い校舎の中へと駆け込んで行った。
(…なんか、あからさまにとられた?)