第20章 あやまった探偵
「極端な話、手を繋いだらデートって人もいれば、二人で出かけただけでデートって人もいるわけで…デートやらカップルやら家族やら夫婦やら…そんなものは結局、お互いの認識が生み出す概念でしかないわけで、基準なんかどこにもないじゃないっすか」
「……つ、つまり?」
「つまりは」
天海は、ようやくサーブを打ち出すことが出来た逢坂を指差した。
完全にだらけきっていた江ノ島と、ヒステリックに陥っていた腐川が反応を見せるより少し早く、二人の間からそのサーブが抜けていった。
パァッと顔が綻んだ逢坂は天海達とは反対側の観戦席に座る王馬の方を見て、『打てた!』と言わんばかりの満面の笑みを浮かべた。
「…つまりは、付き合うのは良くないとか、大切にできるとかできないとか…そういうのは全部、当事者達の問題ってことっすよ。最原君に許されるのは、二人の関係性を否定して一緒にいる理由を論破することじゃなくて、せいぜい「最原の方が一緒にいて楽しい」って思ってもらえるように頑張ることくらいっす」
残念ながら。
今、現在。
『見た!?見てた!?』
彼女が「見ていてほしい」、「褒めてほしい」、そんな愛らしい感情を一番に向ける相手は。
「おっやったねー雪ちゃん!偉い偉い!」
天海でも、最原でもなく。
王馬であることに違いはない。
「29回目のサーブチャレンジにしてようやく初めて1回打てたね!さぁさぁ頑張って!ちなみにもうこの試合だけで30分押してるけど、全然雪ちゃんのせいじゃないからね!気にしなくていいから!雪ちゃんのせいじゃないよ!マイペースにいこ!」
「ちょっと王馬くん!雪は精一杯やってるんだからいじめないで!」
「…まぁ…なんつーか…逢坂さん、男の趣味悪いなって思うのは否定しないっす。…最原君、その顔なんすか?梅干しでも食べたみたいな。どんな気持ちでその顔してんすか」
「………納得できるようなできないような、したいようなしたくないような、不思議な気持ち」
「ははっ、複雑な乙女心ってやつっすね」
「乙女ではないけどね…」