第20章 あやまった探偵
その矢先。
彼女は眉間にしわを寄せ、何巡も何巡も繰り返していたキャラ変のレパートリーの中から、自分の素をようやく引きずり出してきた。
「…臭いってか…腐ってるってかアンタさぁ、もう何日風呂入ってないワケ?汗の臭いも混じって超気分悪いんですけど」
「なっ、何言ってんのよ…!入ってきたわよ、7日前に…!」
「はぁあぁ〜!?ちょ、マジ!?ピンポンピンポンしてる場合じゃないじゃん!!」
比較的地味と形容される競技である男女別卓球ダブルス。
いくつもの体育館を備えている希望ヶ峰学園の一番一番小さな体育館に、4つほど設置された卓球台の1つ。
モテにモテるカリスマギャル江ノ島と、根強い男性ファンが多い世界的ピアニストである赤松と、一風変わった熱狂的ファンが多い逢坂が揃っているせいで、やたら観客席には男子層が多く、無駄に熱気が充満している。
男どもが熱く狭苦しい観戦スペースに密集しているため、青春の甘酸っぱさではない何か別の異臭がしても仕方がないことと観戦者達は口を噤んでいたが、ようやくその原因が目の前の一人の女子であると特定された。
((((…この酸っぱい臭いはそれが理由か…))))
男がよってたかって集まって汗だくになっていると、ここまで絶望的な異臭がするものかと思っていた最原は、心なしかホッとした。
「…腐川さんは、あれなんすかね?自分では気にならない感じなんすかね」
果敢にも、最原の右隣に座って保護者のような温かい微笑みを逢坂に向け続けていた天海が、彼女達には聞こえないボリュームでコメントした。
「気に…ならないか、わかってないんじゃないかな」
「なるほど。通りで十神君がなびかないわけっすね」
「十神くん?…隣のクラスの?へぇ、腐川さんってそうなんだ。天海くんは彼と友達なの?」
「友達ではないっすけど、知り合いっすね。よく家の関係でホームパーティとかで会ったりしてて」
「ホームパーティに呼ばれるって、それは友達じゃないの?」
「ハハッ、最原君は逢坂さんに勝手にキスしたりするくせに、結構純粋なんすね」
「えっ!!!あ、あまり大きな声で言われると…!」
「大丈夫じゃないっすか?ほら、この二人向こうに夢中だし」
「えっ」