第20章 あやまった探偵
(…逢坂さん、本当に運動苦手だよなぁ…)
観戦スペースで体育座りして、小さなピンポン球を打ち合うダブルス競技に奮闘している特別仲の良い女友達二人を眺めながら、最原はそんなことを考えた。
男子バレーが終わった直後、赤松が連れていく形で逢坂も敵チームの偵察を行っていたはずだが、そんな必要すらなかったのではないかと言ってしまいたくなるほどに、目の前で繰り広げられている赤松・逢坂ペアvs江ノ島・腐川ペアの戦いは悲惨だった。
「雪、頑張ってサーブ打って!負けても良い、頑張ることが大切なんだって私のピアノの先生がよく言ってた!」
『…死にたい…』
元々文化系である赤松は、勝負の勝ち負けよりも逢坂と何かに参加するという目的さえ果たせればそれで良いらしい。
彼女は先程から熱い声援を逢坂に送り続けており、その姿勢はもはやよくテレビで見かける某元テニス選手を彷彿とさせるほどだ。
「ちょ、ちょっとぉ…!あんた、ふざけてんの…!?何回サーブ打ち直せば気が済むのよ…!」
「そうですねぇ、私の情報網によりますと、逢坂さんは体育の成績だけいつも平均点以下…万年体育の評定が2の罪木先輩よりも下を行くというデータがあがってきています」
一向に宙に投げたピンポン球を打つことができず、エンドレスサーブターンのせいで半泣き状態になっている逢坂を眺めて、江ノ島と腐川は談笑を始める始末だ。
「あんたもあんたよ、一々話しかけるたびにキャラ変しないでよ…!絡みづらくて仕方ないじゃない!」
「おっとぉ…言ってくれるね。あたしだって根暗なアンタとは絡みづらいさ。仕事の合間に気が向いて珍しく学校に来てやったってのに、突然やれ体育祭だ、やれピンポン球をピンポンピンポンしろなんて言われるとは驚きだよ」
「そんなつけ爪してるから他の競技には出せないんじゃない…!なんでこんな地味な競技に江ノ島みたいなパリピが…!」
「えぇー?でもぉー地味だからこそ華があったほうが良いっていうかぁーこんなに観客がいるのはわたしのおかげってゆーかぁー…臭いっていうか…」
きゅぴん、という効果音すら聞こえてきそうなほど極端に江ノ島はキャラ変し、潤んだ瞳とアヒル口で腐川を眺めた。