第20章 あやまった探偵
(…いや、それこそ戦火が広がるだけだな…自分でどうにかできないものか)
そんな事を考えている間にも、王馬は瞬きすらすることなく、彼と距離を取って腰を下ろそうとしている最原に注目したまま、冷え冷えとした空気を放ち続けている。
『…王馬、仲直り「しないよ」……まだ言い終わってないよ』
聞くまでもないよね?と完全な作り笑いを逢坂へ向けてくる王馬は、先ほど保健室でほんの少しだけ大人しくなったとはいえ、天敵に対していつでも牙を剥くことが出来るほどの臨戦態勢であることには変わりないのだろう。
ほとほと困り果てている逢坂の二の腕を、そわそわとしっぱなしだった赤松がツンツンと突っついてきた。
「雪、卓球の方見に行ってみる?他のペアの偵察に行こうよ!」
『……………。』
「せめて反論してよ、可愛い顔して白目むかないで!…それ、明らかに王馬くんの影響だよね…!?」
「なになにー?何の話?赤松ちゃん」
「王馬くんがふざける時よく白目むくから、雪も白目むくようになっちゃった…」
「え?……どういうこと……白目…?…ッ今までオレに白目むいてくれたことなんて一度もないじゃん!!なんで!?酷いよ、赤松ちゃんだけ特別扱いなんて!!!」
『いや、彼氏に白目むいた顔見せたい人なんて全人類しらみつぶしに探しても少数派だよね』
「オレも見たい」
『やだよ、絶対に』
「…あぁそっか…雪ちゃんは彼氏のオレに重大な隠し事をし続けた挙句、白目すらむいてくれないって言うんだ…いいよ、もう!そんなに隠し事したいなら、好きなだけ最原ちゃんと白目つつき合ってなよ!」
『痛そうだなぁ…』
「隠し事の部分はスルーなんだ?そっかそっかー、ふーん」
『…楓!卓球の偵察に行こう』
「え?王馬くん、拗ねてるっぽいけどいいの?」
ちら、と逢坂が王馬に目をやると、彼は恥じらうことなく上目遣い攻撃をしてきた。
助け舟を求めている逢坂のアイコンタクトに気づき、赤松がピンと人差し指を立てて発言した。
「王馬くんもおいでよ!」
『えっ』
卓球のペアを組む予定の彼女がよこしてきたのは、まさかのキラーパス。
こんな意思の疎通がうまくいかない者同士、戦いになるのかと逢坂は危機感を覚え、数十分後に控えている自身の試合に思いを馳せた。