第20章 あやまった探偵
男子バレー、トーナメント初戦は2-Aが接戦を制し、見事に勝利を飾った。
超高校級のマネージャーの才能を持ってしても勝利へと導く事ができなかった理由は選手たちの豊かすぎる個性に原因があるのだが、弐大がひどく落ち込んでしまった。
慌てて3-Aのメンバーが彼をフォローしているのを、逢坂はぼんやりと眺めていた。
(……あ、これから修羅場の始まりだ。こんなにのんびりしてるわけにいかない…)
逢坂は戻ってくる2-Aのメンバーを見て、次に隣に座る王馬を見た。
ニコニコとしている彼の視線はジッと警戒を緩めずに最原へ注がれている。
仲直りしてもらうことも考えたが、逢坂にそんな間を取り持つことの出来るコミュニケーション能力はない。
(…喧嘩……仲直り……うーん…)
ふ、と。
逢坂の前に立っていた人影の存在に気付き、ゆっくりと彼を見上げた。
「どうでした?バレー」
『…天海』
楽しそうだったね、と感想を述べると、「ハハッ、全然羨ましそうじゃないっすね」と笑われた。
実際羨ましくないのだが、天海は逢坂を見下ろしたまま、まだ無言で微笑んでいる。
『……?』
その、何とも言えない圧力に逢坂はまた口を開き、『…か…かっこよかったよ』とコメントした。
「本当っすか?逢坂さんにそう言ってもらえるなら、頑張って良かったっす。前半全く姿が見えないような気がしてたんすけど、気のせいっすか?」
『う、うん気のせい』
「へぇ…気のせい?」
『………………………』
「まぁ別に、いいんすけどね」
全然良くなさそうだ。
天海は軽くため息を吐き、スポドリとタオルというスポーツ漫画のような差し入れを天海だけに用意していたらしい夢野からそれらを受け取り、営業スマイルを浮かべた。
「…どうもっす」
『…。』
たまに。
天海が他人に一線引いている瞬間を垣間見てしまうことがある。
爽やかに、朗らかによく笑う彼は大抵の場合笑っていない。
相手に良い印象を与えるため、そんな理由で彼はヘラっとした笑みを浮かべる。
疲れも機嫌も完全に顔に出るタイプの逢坂とは別次元の人間だ。
(…天海は商談をまとめる仕事をしているんだっけ)
喧嘩をおさめて、と頼むのは少しお門違いかもしれないが、彼なら。