第20章 あやまった探偵

バレーの参加権も発言権も奪われたゴン太がまたしょんぼりした直後、主審の笛が鳴りバレーが再開される。


「あ。俺取るっす」


完全に狙われている真宮寺の隣に立っていた天海が、アンダートスで柔らかい軌道のボールをキーボの方へとあげた。
コートを挟んだ向こう側の観戦コーナーにやたらと集まっていた女子たちが「「「きゃー天海くーん！！！」」」と歓声をあげる。
その声に敵対意識を持ってなのか、こっちサイドで茶柱と夜長の間に座っていた夢野が「天海ぃいい」とあわや絶命寸前なのではないかと思えるほどの大声で叫んだ。


(…天海、やりづらそうだな…)


なんとも言えない苦笑いをしている天海に逢坂が視線を持っていかれていると、ピーッというホイッスルが鳴った。
天海がナイスカットであげたボールを、キーボが「先程の百田クンの発言は完全にロボット差別です…！」と異論ありげにオーバートスであげていたはず。
しかし今やそのボールはキーボのトスの軌道に乗って放物線状に宙を飛び切り、レフトに立っていた百田のすぐ横に落ちている。


「狛枝先輩、なんつー卑怯な手を…！」
「え？卑怯だったかな」


ネットを挟んだ向こう側の敵チーム、しれっとした顔をしてブロックに跳びすらしなかった狛枝に、百田は妨害行為を受けたらしい。


「何が「あっ、UFO」だよ！どこにもUFOなんていねェじゃねぇか！」
「ははっ、「えっ、本当！？」って振り返った百田クンピュアっピュアだったね。次はどんな未確認生物を発見したことにしようかな」
「悔い改めろ、振り返っちゃうじゃないっスか！」


正々堂々戦え！と自業自得で点を落とした百田に反論されている狛枝は息を切らすことなく、爽やかに笑っている。
逢坂の背後から、立ったまま天海を激写していた3年の小泉真昼が「ほんっとうちの男子って頼りないんだから…！」と不満げな声を漏らしたのが聞こえた。


「フハハハ！！行くぞ、破壊神暗黒四天王！再び奴らに烈火の如き魔弾を放ち地獄を垣間見せてやるのだ！」
「田中さーん、サーブ頑張ってくださーい！！」


サーブを打つポジションに立って禍々しい口上を述べてきた3年の田中眼蛇夢。
彼のマフラーに生息している四匹のハムスターは試合中ですら一心同体らしく、マフラーに掴まって、今か今かと魔弾が放たれるその時を待っている。