第20章 あやまった探偵
『…嘘だよ』
「だよねー!さっすが雪ちゃん!」
「わかってるー!」と言葉を続け、まるで何もなかったかのようにいつものふざけたような口調で接してくる彼の真意は、きっと。
今回の一件に関して何の非もない彼を傷つけた逢坂の、自分自身への罪悪感を煽ってやろうという魂胆からだとわかってしまう。
謝って許してもらえるものなんだろうか。
そんなことを逢坂が考えていると、少しの間静かになって逢坂の胸に耳を当てていた王馬が身体を離し、見下ろしてきた。
「ねぇ、なんで?」
『……?…なんでって?』
「全然速くなってない。いつもと違う」
『…………』
いつもと違う。
そう言った彼は口角を下げることなく。
けれど確かに、その瞳には焦りが見え隠れしている。
こんな罪悪感を煽られてなおドキドキとしていられるほど逢坂のメンタルは強靭ではないからなのだろうが、王馬にとっては。
王馬に抱きつかれても逢坂の鼓動が高鳴らないのには、逢坂の中に違う理由が存在している可能性があるからだ、と認識するに足ることらしい。
『…違うよ』
彼がどこまで話を聞いたのかわからない。
けれど確かに、逢坂と最原がキスをした、という事実だけを聞いてしまえば、一番先に思い浮かぶ理由なんて。
『…そんな気持ちはないよ。王馬だけ』
「じゃあなんでオレに黙ってたの?言えないような状況で、言えないような理由でキスしたからじゃないの?」
『………それは、相手が最原だからだよ』
「答えになってないよ」
『………だって好きだから』
「………!」
王馬が目を見開き、眉間に深いシワを寄せた。
矛盾してるよ、と怒気を孕んだ王馬の声に、逢坂は顔色を変えることなく、彼の頬に片手を置いた。
『…好きでしょう?最原が』
「……は?オレが?どこをどう見てたらそう思うの」
『…王馬を見てたらわかるよ』
キミだけを見ていたら。
そう言葉を変えた彼女の真意が、王馬の抱いている疑心を取り去るためだと即座に見抜き、王馬は否定するのをやめて、一度呼吸を整えた。
「…その言い方だとさ、雪ちゃんがそんな気ないのに勝手にキスした最原ちゃんが悪いってことでいいんだよね?」