第20章 あやまった探偵
「上書きさせてよ」
開会式終了直後。
うなだれている逢坂を無視する形で手を引いて、保健室へとやってきた王馬はそんなわがままを口にした。
『…今は、男子バレーを応援すべき時間じゃないのかな』
自分たちがここにいては、キーボが一人になってしまう。
逢坂が王馬から視線を外すことはないものの、別の存在に気をとられているのを察してなのか、王馬は譲る意思を見せることなく、保健室の扉に鍵をかけた。
『ねぇ、先生は?』
「さぁ」
『さぁって』
「タイミングよくどこかに行ってるんじゃない?オレは別になーんにもしてないけどね!」
『確実に何かしたように聞こえてしまう』
「すぐ人を疑うなんて良くないよ、この世の中そんなにみんな嘘つきばかりってわけじゃないしさ」
まぁオレは嘘つきだけどね、と王馬は笑い、我が物顔で保健室のベッドに飛び乗った。
おいでよ、と示しているらしい彼の手招きを受け、逢坂は渋い顔をした。
「どうしたの?雪ちゃん」
『………危険区域には立ち入りたくない』
「オレの腕の中が危険区域ってどういうこと?確かに雪ちゃんはオレに抱きしめられるとそのまま死んじゃうんじゃないかってくらい心臓が慌ただしく動いて心配になるほどウブだけどさ、大丈夫!もし恥ずか死んだとしてもオレの腕の中で安らかに眠らせてあげるからね!」
『そうじゃなくて。キミが座ってるそこが危険区域』
「やだなぁ雪ちゃん、流石のオレでも学校のベッドなんかでそんないかがわしいことはしないって!」
『…本当に?』
「本当だよ!」
嘘だよ、と彼が言わないのは珍しい。
そんな理由で逢坂は彼の方へと歩みを進め、ベッドに腰掛けて足を組んでいる王馬の隣へと腰を下ろした。
「…なんてね?嘘だよ」
嬉々としてネタバラシをした王馬が逢坂に抱きついて、そのまま体重をかけ、彼女をベッドに押し倒した。
にしし、と耳元で囁かれた彼の笑い声に、逢坂は深くため息をつく。
『キミを信じたのが間違いだった』
「傷つくなぁ、ふざけてもそんな言い方しないでよ」
嘘だって言って?
彼は逢坂の胸元に顎を乗せたまま、首を少し傾けつつ、そんな願望を口にした。