第19章 ここだけの話
『どうしたの、そんなにほっぺ膨らませて』
「……………。」
ようやく、開会式が予定されているグラウンドに集まった男子たち。
その中でもキーボに引きずられながら、最も遅く到着し、尚且つ底抜けに不機嫌そうな王馬に逢坂が問いかけた。
彼は穀物を口に頬張る小動物のように頬をパンパンに膨らませており、完全に「構って」状態だ。
だから『どうしたの』という言葉を逢坂は繰り返しているのだが、一向に王馬が口を割る気配は見られない。
本人から全く手がかりが得られないため、他の生徒たちに話しかけて情報を得ようと動き出そうとした時、しっかりと王馬が逢坂の手を掴んできた。
『…ここにいろってこと?』
「………。」
不貞腐れ顔の彼が、なぜ不満を口にして逢坂を誘導しようとしないのかわからない。
いつもの彼なら、気にくわないことがあれば直接わかりやすくアピールするか、そんなことを感じさせないうちに言葉巧みに逢坂を誘導してしまうかのどちらかなのに。
『……王馬ちゃんどうしたの』
「なにその呼び方、馬鹿にしてんの?」
『それ自分は周りの人間馬鹿にしてるって言ってるのと一緒だけど分かってる?』
「してないよ。オレは人の名前に「ちゃん」をつけなきゃスナイパーに撃ち抜かれて死んじゃうから仕方なくどいつもこいつもそう呼んでるだけだよ」
『キー坊は?』
「キー坊は人じゃないから」
『獄原くんは?』
「ゴン太も」
ムスッとしたまま、口先だけはいつも通りペラペラと嘘を吐き続ける王馬。
彼の隣で整列しようとしていたゴン太が、「ゴン太は人だよ!?」と心外だと言わんばかりに叫んだ。
「ところでさ雪ちゃん。オレに言わなきゃいけないことあるんじゃないの?こんな世間話してるより何よりも先にさ」
『……言わなきゃいけないこと?』
逢坂は整列しながら王馬を横目で眺めて、んー、と小さく呟いた後。
『…髪切ったね。似合ってる』
「確かに1センチ切ったけど違うよ。そんな乙女心からくるような可愛い質問じゃないから」
『……。』
「ほら、答えてよ。思い当たることがあるはずだよね?オレに責められたら何も言い返せないようなトップシークレットが、君たち「二人」の間にはさ」