第19章 ここだけの話
君たち二人、と言われれば。
思い当たることは一つだけしかない。
(…なるほど、通りで最原が朝からずっと困った顔してるわけだ)
『……今ここでは言えない』
「なんで?彼氏がこんなに不満そうなのに友達の風評被害優先させるんだ?あーそっかそっかぁなるほどねぇ、確かに二人は秘密を共有する共犯者同士だもんね?それは確かに裏切るわけにはいかないかぁ」
オレだったら、何を差し置いても優先すべきものがあるなら共犯者の友達ぐらい簡単に裏切るけどね。
そう低く呟いた王馬はジッと逢坂に視線を向け、彼女と目が合う直前。
パッといつものような笑みを浮かべた。
「雪ちゃんはオレを裏切っといて、最原ちゃんは裏切りたくないっていうことだよね?」
『裏切ってないから。悪い方向に話を持っていかないで』
「えー?今だって裏切ったでしょ?彼女の隠し事を知った彼氏の心配より、一緒に隠し事してた友達の心配なんてさ、それはもうどっからどう見ても裏切りとしか言いようがないよね」
『心配ならしてたでしょ、どうしたのって。裏切りとかそういう重い言葉で罪悪感を煽らないで』
「なんでオレが怒られなきゃなんないの?悪いのはそっちじゃん」
『怒ってないよ』
「オレは怒ってるよ」
『…悪いのはこっちだから良いよ』
「だからさ、オレの気が済むまで雪ちゃんはオレのわがまま聞いてよね」
(…なぜ…)
開会式が始まろうとしている。
完全に口を閉じなくてはいけないタイミングを狙ったのか、王馬はそんな条件を一方的に提示した後、逢坂から視線を外して前を向いた。
逢坂がそれでも反論しようと口を開いた矢先、教頭がマイクを使ってグラウンドに声を響かせ始め、断念してしまう。
(……私……一応被害者……)
そんないたたまれない心境を余すところなく王馬に伝えたところで、焼け石に水というものだろう。
一体、どうしたら。
途方にくれていると、「逢坂さん、頑張りましょうね!」と俄然体育祭への熱を高めている茶柱が肩を叩いて囁いてきた。
逢坂は完全に頭から抜け落ちていた「体育祭」という年間行事に参加しているという現実に引き戻され、そっちはそっちでウンザリとした気持ちに落ち込んだ。