第19章 ここだけの話
(いや、キスしたのは最原クンの私情だよね)
積年の不満が爆発している後輩たちの導火線に火をつけた張本人である狛枝は、冷めた目で、いくらでも論破できる二人の論争をただただ見守る。
(この様子だと最原君がキスしたのは間違いなさそうっすよね。…んー、どさくさに紛れて喧嘩止めるフリして最原君殴っても、うやむやになるんじゃ。どうするっすかね)
きゃんきゃんと吠えている友人二人を観察している天海は、どうやって罪を露呈させることなく最原に一発拳を叩き込むべきかを深く熟考する。
(あーぁー終一…言ってること支離滅裂だし、嘘ついてるとしてもあんなに否定したらなおさら嘘っぽいだろ…。今の話聞いてたのは、狛枝先輩と天海、オレと…あぁ、星は周りに言いふらしたりしねぇよな。真宮寺は美しいヨ美しいヨ繰り返してっから放っておこう。…あれ?)
百田は何だか確定クロっぽい友人が珍しく声を荒げているのを、何とも擁護し難い状況に身を置かれつつ、先ほどまで見かけていたはずの人影が一人欠けていることに気づいた。
「天海、キーボどこいった?」
「…え?あれ、本当だ。先行ったんすかね」
全く着替える必要性など皆無なのに、流れで更衣室へとついてきていたはずのキーボ。
いつのまにか姿を消した彼に話題が上った時。
着替える必要性があったにもかかわらず、頭の性能の低さ故そのままグラウンドに向かってしまったゴン太が慌てて更衣室に入ってきた。
「あっ、本当だまだみんないた!!」
「おぉゴン太、お前どこ行ってたんだよ?」
「着替えるの忘れてたんだ」
「「いやそんなことある?」」
百田と天海が声をハモらせた直後、キーボがひょっこりと廊下から顔をのぞかせた。
「皆さんまだ着替え終わらないんでしょうか…?用がない以上、手狭に感じたので廊下で待ってたんですが、何をさっきから騒いでいるんですか?」
「おぉキーボ!ちょうどいいところに!逢坂呼んでくるか王馬引っ張っていくか手伝ってくれ!」
「えっ、それは構いませんが…最原クンが大声を出しているのを初めて見ました。王馬クン、何をしたんですか!?」
「今回に限っては王馬君は被害者っぽいっすよ」
まぁ、とりあえずうるさいんで。
と大義名分を思いついた天海が王馬と最原の頭頂部にゲンコツを落とし、にこやかに私情100%の両成敗を行った。