第19章 ここだけの話
「…ッ」
(……知ってるわけない)
狛枝さんがあの病室での出来事を知っているわけ、ないのに。
彼の口元にあてがわれたその人差し指に視線を向けてしまい、最原は瞬間的に、逢坂とキスを交わした一瞬を思い浮かべてしまう。
「……っちが…!」
真っ赤に赤面した最原を見て、狛枝が一瞬笑顔を崩し、冷たい視線を彼へと向ける。
あー…本当にそうなんだ?と呟いた狛枝と最原の間。
物陰が素早く動き、それが何者であるのかを最原が視認するより早く。
ガッ、と最原の胸ぐらを王馬が掴んで引き寄せ、強制的に彼の上半身を前倒しにさせる。
「ーーーーキスしたの?」
笑顔を消し去った王馬は、最原の顔から数センチも離れていない距離まで自身の顔を近づけ、ジッと腹の内を探るかのように瞳の中を覗き込んでくる。
「ねぇ、したの?オレの彼女なのに?なんで?もしかして嫌がらせ?オレへの?それとも雪ちゃん?なんでって聞いてるよね、なんで答えないの黙ってんじゃねぇよ答えろっていつも余計なことばっか言ってくるくせにこんな時は何も言えないのかよ黙ってないで言い返せって、とっとと反論でも何でもしてみろよ!!!」
「離してよ王馬くん!そ…っそんなことしてないよ!そんなことしてないって!」
「おわ、何だ何だ急に!」
「どうしたんすか、ちょっと二人とも冷静に…!」
躍起になって最原の胸ぐらを離さない王馬を、百田と天海が引き剥がす。
最原は引っ張られていた力から解放された反動でロッカーに背を打ち付け、激しく咳き込んだ。
「そんなこと、してないってば!!」
「じゃあ何でそんな反応してんだよ、最原ちゃんがつく嘘って本当につまんないよ!ド下手くそだしユーモアのカケラもないし本っ当に最低最悪!!」
大嫌い!!!
と怒鳴る王馬に、最原が一瞬たじろいで返事を返す。
「僕だって、君のこと好きじゃない…!1年の頃僕と仲良くしてたのだって逢坂さん目当ての計算だったんだろうし、人の話聞かないし、いつも自分本位だし、好きだっていうくせに何にも彼女のこと考えてない…!」
「じゃあ最原ちゃんは雪ちゃんのこと何考えてやったっていうのさ!振り回してんのはそっちじゃん!」
「っ君が逢坂さんのこときちんと大切にしてたら、僕だってこんなことしないよ!!」