第19章 ここだけの話
三つのカメラを大きなボストンバッグへと詰める狛枝に、王馬が「え?嘘って?」とキョトンとした顔を向ける。
「獄原クンとの会話、王馬クンは疲れてなんかないよね」
「うわぁ何かと思えばそういうこと?わかってないなぁ狛枝ちゃんは!」
「うん、正直全然王馬クンのこと掴めてないんだ。はは、ごめんね?今よりもっと仲良くしてくれると、ほんの少しはわかる気がするなぁ」
「やだよ、狛枝ちゃんはオレと仲良くしたいんじゃなくて、結果的にオレの側にいる雪ちゃんに近づきたいんでしょ」
「あれ、バレた?というか…隠す気すらなかったんだけどね。それにしても思い至るのが早かったね、もしかして身に覚えでもあるの?」
ジャージに着替えた最原が一瞬、二人の方に視線を向ける。
「でももちろん、優秀なキミの友人になれたらそれはそれでのたうち回るほど嬉しいよ!」と狛枝がまた掴みづらい発言をした。
「いてっ」
「後輩に絡みづらいちょっかいかけんな。行こうぜ」
永遠話が途切れなさそうな狛枝に、左右田が背後からチョップを下し、更衣室から出ていく。
「言えばわかるのに…じゃあ、最原クン、百田クン、キーボクン、また後でね!」
「了解ッス!頑張りましょうね!」
「はは、百田クンがその口調だと誰か別の人を彷彿とさせるね!」
「へ?」
「はい、後で」
「最原クン」
狛枝が最原を手招きし、近寄ってきた彼の耳元で囁いた。
「後で、「逢坂さんに何したのか」教えてね?」
「…………!」
狛枝は笑っている。
その目の奥には、天海とよく似た荒々しい感情が押し殺されている。
なぜ知り得たのか、それは単に。
彼が彼女に出会うたび、瞬きすらせず一心に彼女の言動に夢中になり続けた結果だろう。
最原と顔が近くなると彼女は微かに距離を取るし、王馬の前では事務連絡をすることすら極力避けている。
気づかない生徒がほとんどだが、天海のように彼女に想いを寄せている生徒は勘づいているし、その想いはいくら狂気じみていると言っても、狛枝も負けず劣らずだろう。
「…ボクが思うには…」
狛枝はそう言葉を切って、まるで、「彼」には、隠してあげようか?と打診するかのように。
人差し指を口元で立てて
コレだよね?と、問いかけてきた。