第19章 ここだけの話
「あぁ、あったヨ」
そして、彼は花柄のふわふわとしたシュシュを取り出し、スッと狛枝に手渡した。
「ありがと!」
「いや女子かよ!!オメーも平然としすぎだ!!」
「えっ、いや…人様から借りておいて文句も何もないよ」
でもちょっとボク髪細いから落ちちゃうかもな、と困った声を出す狛枝に、「あぁそれなら一度ゴムで縛るといいヨ」と真宮寺がヘアゴムを手渡した。
「あーなるほど、シュシュの前にヘアゴムで縛ってから……あれ?」
「……………」
「……………」
「……………」
「あっ、これツッコむところかごめん!!せっかく!せっかく初対面さながらにボクみたいなヘアゴム一つ所持してないバカでどうしようもないゴミクズ野郎にノリツッコミなんて場を与えてくれたのに…っごめん、もう一回やらせてよ!」
「仕方ないネ、じゃあポーチからリップクリームを出すくだりからやるヨ」
「あの、とっとと着替えないんすか皆さん。体育祭の着替えシーンでどんだけページ数使う気っすか」
「いいじゃん、体育祭なんてどうせキー坊が卓球台の下敷きになって分裂するところしか見所ないんだからさ」
「なんなんですかその見どころ!?予告風にとんでもない予言をしないでください!!」
「あーあー、楽しみだなー。ダブルスのペアが試合終盤、首からねじ切れて関節からオイル吹き出して故障するところなんか見たくないよー」
「全然楽しみじゃありません!!」
朝から終始つまんなそうな王馬が、バサッと制服を頭から脱ぎ捨てる。
案外面倒見がいいのか、距離をとって狛枝を待っていた左右田の隣で、キャッホウと花村が鳴いた。
「………花村ちゃん。一緒に写真写ってあげよっか?」
「えっほんとに!?ほんとうにいいんですかありがとうございますできればでいいんだけどその上半身裸状態で写ってくれたらほんとにありがとうございます!!」
「オッケー!じゃあ花村ちゃんのスマホ貸してよ!オレ結構インカメ上手いからさ」
じゃー撮るよー、という王馬の声の後、ゴシャァッという破壊音と、花村の叫び声が最原の耳に届く。
「嘘だよー!」
「シャレになってないよ、ぼくのスマホの画面が!!」
(…王馬くん、完全に不機嫌だな…)
でもまあ、盗撮されないので良し。
着替えていた他のメンツが無言で王馬の功績を褒め称え、全力で彼の悪行に知らないふりをした。
