第18章 得意不得意
王馬と最原がようやく逢坂に視線を向けると。
彼女は自分の座席で、小さく小さく身を縮こまらせて、恥ずかしそうに俯いていた。
『……授業始まるから、二人とも座って』
「…雪ちゃん」
「逢坂さん、僕」
座って。
と強く言い直した彼女の声を聞き、王馬と最原は言葉を失った。
はぁ、とため息をついて座席に腰を下ろした天海を見て、気まずそうに他の生徒たちも授業の準備をし始めた。
一限目が終わり、次の選択教室へと向かってすぐに教室から出て行った逢坂を、最原が追いかけた。
「逢坂さん、ごめん」
『最原』
わたしが困ってても、それでも嬉しいの?
そう問いかけてくる彼女に、最原は言葉を詰まらせ、ただ小さく「ごめん」と呟いた。
『…私の事を思って言ってくれてるのはわかるよ、ありがとう、でも良い方向へは向かってない』
「……。」
『ちょっと放っておいて』
逢坂は早足になり、最原を振り切るようにその場から立ち去った。
そんな最原の背を眺めていた天海が、最原君、と声をかけた。
「何があったのか、教えてください」
「…ごめん、教えたくない」
「どうして?」
「教えられない」
「教えられないような事したって思っていいんすね?」
「………。」
それで、いいよ。
そう俯いて返事を返した最原を見て、天海は眉間にシワを寄せ、通り過ぎた。
「それで1番彼女のこと大切にしてるつもりって、冗談だとしても笑えないんで」
追い越される瞬間。
天海はたしかに怒りを称えた瞳を最原に向けた。
最原はその視線を受けてうつむき、深呼吸をした。
「あ、あの…最原くん…」
「…なに、赤松さん」
「ま、間違ってなかったと思うよ。だから、元気出して!最原くんは正しいこと言ってたんだし!」
「…ごめん」
ちょっと、放っておいて。
最原は赤松の方を見ることなく、横を通り過ぎて教室に入っていった。
彼を元気づけようと、無理やり作っていた赤松の笑顔が崩れ、彼女は少しだけ潤んできた目元を人知れずゴシゴシと擦った。