第18章 得意不得意
「オレちょっと百田ちゃんの下駄箱に、血のりぶちまいてくるね」
「そんなことしちゃだめだよ王馬くん!」
「あ、今度は最原君が来たっすよ」
「「えっ」」
キーボを含めた四人で、無言のままにグラウンドをじっと見つめる。
段々と周囲の空気が冷え込んでいく赤松と王馬を横目で見て、天海が提案した。
「皆さん、こんな時こそ深呼吸」
「あはは、こんな時ってどんな時?中学からの友達二人が自分のいない場所で楽しそうに笑ってるのを久々に見て、(あぁ、懐かしいなぁ…)なんてセンチメンタルに浸った時?」
「にしし、赤松ちゃん違うよー?長年の片思いを経てようやく付き合った彼女が、彼氏持ちだという事実を知りながらも口説いてくる男に対して笑顔を見せてるのを目撃して(あぁ、邪魔だなぁ)なんて殺意が芽生えた時のことだよ」
「二人とも、目が笑ってないんで。見なかったフリが1番いいっすよ」
「王馬くん、私体育祭頑張るよ!!」
「その意気だよ赤松ちゃん!!」
「あの、体育祭でもっと健全に戦うことは出来ないんですか?」
「キーボ君、多分もう二人には聞こえてないっすよ」
「私、最原くんに雪は渡さないから!!」
「そうだよね!最原ちゃんに……ん?ちょっと違うけどいいや!一緒にネガティブキャンペーン、頑張ろうね!!」
「ネガティブキャンペーンはしない!ピアノバカの私だけど、ピアノ以外の取り柄もあるんだって見てもらわないと!!」
「最原ちゃんにだよね?赤松ちゃん、ちょっと向いてる方向が一人だけ違うよ!」
「王馬くん、キーボくん、卓球の練習付き合って!!」
「嫌だよ、なんでそんな暑苦しい方向に向かうの!?」
「えっ、卓球やってみたいです!!」
「天海くん、ダブルスでやるから昼休み付き合って!娯楽室に卓球の練習しにいこうね!!」
「そういう真っ直ぐな頑張り方なら、協力するっすけど…」
(…昼休み、また最原君と逢坂さん二人きりになるんじゃ)
と天海が考えるのと同時に、王馬が心底嫌そうに反論した。
「だからさぁ、そんな面倒なことしなくたってもっと確実な方法があるんだって!それに昼休みまで雪ちゃんと一緒にいれなくなっちゃうじゃん!」
「あれ、昼休みも確か白組練習だって聞きましたけど…」
「は?」
王馬がイラっとした顔を隠さず、グラウンドを見下ろした。