第1章 ガラスの向こうの横顔
それはなんてことのない夏の平日。
退屈に感じて仕方がない授業中の出来事だ。
逢坂は、その日も普段と変わらず、気もそぞろに授業を受けていた。
空をぼんやりと眺めて数秒後、教師が板書を書き終わるタイミングに合わせて前を向きなおる。
そんないつも通りの不真面目な行動を繰り返していた逢坂は、不意に、誰かの視線を感じた。
(…あ、バレてる)
教師からの視線だろう。
そう思い、何食わぬ顔で視線を机に落とす。
しかし、さっきから感じる視線は、教師がどこを向いていようと変わらずひしひしと伝わってくるような。
(………?)
教室を見渡したが、逢坂をガン見している生徒はいない。
不真面目に受けている生徒もいるにはいたが、ほとんどが真面目に授業を受けているようだ。
(………あの子か)
窓の外に視線を移し、名前を知らない生徒と目が合った。
その子は逢坂のいる教室を過ぎ、廊下を曲がってすぐにある隣のクラスで授業を受けているらしい。
コの字の一画目の屈折部分にある二つの教室の窓際からなら、お互いの教室にいる人の顔が判別出来る程度には見ることができた。
同じく窓際に座席があるらしい隣のクラスの彼は、逢坂と目が合ったことに気づき、紫色の癖っ毛の髪の中にある顔をパァァッと眩しく輝かせた。
(……喜んでる…のか?)
なぜ。
そんな疑問が浮かんだ直後、彼は授業などお構いなしなのか、ヒラヒラと手を振ってきた。
無視する理由もないので、逢坂は左手をあげて軽く手を振り返す。
直後、彼の周りにポンポンと花が飛び散るほど喜んでいるエフェクトが見えた気がした。
(あ、授業忘れてーーー)
ハッと思い出したが、もう遅い。
逢坂の机のすぐ側に立ち、その額に青筋を浮かべて、引きつった笑みを浮かべている教師と、今度はバッチリと目が合った。
「…逢坂さん…?」
『…………すみません…』