第18章 得意不得意
『……私、ちゃんと走るから一人で大丈夫』
「…それじゃ、つまんないだろって百田くんが」
『つまんない?』
「うん。朝練なんてせっかくしてるのに、一人でやってちゃ意味ないって」
百田はどうやら、宇宙飛行士の訓練生なだけあって、連帯感を生むという目的に対しては、周囲への細かい配慮が出来る男子のようだ。
居づらそうにしている最原の顔を見ていると、逢坂はまた申し訳ない気持ちになって。
『……じゃあ、百田くんに従おうか』
と返事を返した。
最原は、一瞬だけ嬉しそうに頬を緩めた後、「ありがと」と申し訳なさそうに逢坂に言葉を返す。
グラウンドを走る集団の中で、血眼になってガン見してくる白銀の視線を気にしないようにしながら、二人でマイペースに走った。
「…あの」
『…ん?』
「……今度、一緒に遊びに行かない?」
『行かない』
「僕と二人じゃなくて、赤松さんと、天海くんも誘って」
『…………』
「…王馬くんは…その、できれば…僕と今険悪だから、またの機会にお願いしたいけど」
『険悪な雰囲気に持ち込んだのは別に王馬のせいじゃなくない?』
「うん、それはそうなんだけど…そういえば今日、王馬くんとは別々に登校してきたの?」
『険悪な雰囲気なもので。朝練って言ったら「あっそ!早起きして合わせるほど今雪ちゃんと関わりたいと思わないから!」って言われた』
「あぁ、本当にごめん。あはは、逢坂さん、王馬くんのモノマネ上手だね」
『あははって最原くん、君ねー』
「あははは、ごめん。なんかさ、こんなこときっと…考えちゃいけないんだろうけど」
そして、最原は、少しだけ嬉しそうに、けれど逢坂の顔色は伺ったまま、言葉を続けた。
「…ずっと、このまま蚊帳の外かなって思ってたから。ずっと、好きだったのにこのまま。だから嬉しいんだ。…最低だって、わかってるのにね。苦しいけど、嬉しいんだよ」
そう言って笑う最原は、やはり逢坂が知っている穏やかな笑顔とは少し違った、影を含んだ笑みを浮かべた。
『………。』
ごめんね、と繰り返す中学時代からの友人に、逢坂は、あまり謝らないでよ、と。
王馬のことを思うのなら、突っぱねなくてはいけないことを理解していながらも、そんな言葉しか返せなかった。