第17章 押しつけられた隠し事
謝罪と、打診を繰り返す僕に、逢坂さんは深くため息をついた。
『…私は別れないよ。だって、今回の怪我は王馬のせいじゃないから』
「だから、別れないって話にはならないよ。王馬くんの側にいるって、思ってるより簡単なことじゃない。だって逢坂さんはそういう危険な人たちに対して、自衛出来る手段を持ってないでしょ?」
『楓みたいなこと言ってるね。自衛の手段なんていくらでも作れる』
「逢坂さんは犯罪を犯す人がどういう人か知らないでしょ?」
『なら最原は知ってるの?』
「逢坂さんよりは知ってるよ。そういう世界で生きてる人が、本当にキミに危害を加えようと思ったら、そう簡単に逃げられるものじゃない」
『……。』
「王馬くんが守ってくれると思ってるかもしれないけど、その王馬くんだってキミに危害を加えかねないよね?彼の言うことが本当なら、彼は」
やめて、と。
逢坂さんのはっきりとした声が、病室に響く。
その拒絶反応を見て、僕は少し冷静ではいられなくなって、彼女の手を取った。
即座に手を離そうとする彼女の手を両手で握りしめ、僕は吐息がかかる距離まで彼女の顔と、自分の顔を近づけた。
身構える彼女に、僕は言葉をぶつけた。
「キミが心配なんだよ」
暴力とは違う形で、彼女を傷つけておいて。
僕はそんな白々しいセリフを口から吐いた。
「だから、考えておいてね。僕は逢坂さんのこと、今でも大切に思ってるから」
目の逸らしようがないほど、近くで、彼女の瞳を覗き込んだ。
彼女は次第に、警戒心よりも気恥ずかしさが優ってきたのか、身体をよじって僕から距離を取った。
「…じゃあ、お大事にね」
そう言い残し、病室から出て、扉を閉めた直後。
壁にもたれかかりながら、冷ややかな視線をこちらに向けている王馬くんと、視線を合わせた。
「…僕は先に帰るよ、王馬くん」
「最原ちゃん」
殺すよ?
なんて、物騒な言葉を笑いもせずに吐いてくる彼から視線を逸らさず。
僕は、彼に啖呵を切った。
「そんなことができるなら、やってるはずだよね。焦ってるからって強い言葉を使わないでよ」
僕と、王馬くんはその後も数秒間睨み合い。
その空気をぶち壊すビジュアルの看護師が現れたのを機に、僕は蛇に睨まれた蛙のように止めていた呼吸を再開した。