第16章 見かけによらない
ぼんやりと夕陽を眺める彼女。
そんな彼女のベッド脇に座ったまま、掛け時計の秒針の音が病室に響くのを、黙って二人、聞いていた。
『…あのさ。日向先輩は、本当に何も悪くないんだよ。私が不注意で落ちただけだから、あまり考え込まないでね』
もしかして、自分のせいで怒らせた、と思っているんだろうか。
こっちが勝手に怒ってるだけなのに、逢坂さんは少し、周りに気を使いすぎだと思う。
色々言いたいことはあるけど、まだ頭の中で整理がついていない。
とりあえず黙って頷いてみせると、彼女は少しだけ安心したように微笑んだ。
『…あのさ』
「……?」
『今日、キーボと一緒にいてあげてくれない?家に帰ってまで一人にするのが不安で』
また、逢坂さんは他人の心配ばかり。
もっと自分のことを心配していればいいのに。
念のための検査入院だって、そこまで医者の言葉を真に受けていいものだろうか?
なんだか、他人の自分の方が逢坂さんよりも、明日の検査結果を心配している気がする。
「……逢坂さん」
『…ん?』
言いたい言葉が、口から出てこなくて。
ぎこちない笑みを作って、彼女に笑いかけた。
「…怪我の具合は?」
『大丈夫、あはは、心配しすぎだよ』
「…心配しすぎ?」
『うん。いつまでもそんな顔しないで』
(………だって、それは)
キミが、危ない目に遭うから。
何も言ってくれないから。
これ以上近づくことを、許してくれないから。
だから、深く考え込んで、キミを知った気になるしかないんじゃないか。
「…逢坂さんのせいでしょ?」
『ごめんって。そんなに怒らないで』
「怒ってません」
『怒ってるじゃん』
なんだか、馬鹿みたいだ。
自分ばっかりこんなに、こんなに不安になって。
『…お……そいね、楓たち。二人、ちゃんと楓たちと会えたかな』
(……おそい、じゃなくて、王馬って言おうとしたんだよな)
彼女の不自然な言葉の使い方を聞いて、また勝手に嫉妬した。
(……今は)
自分と、一緒にいるのに。